1. 京都大学法学部の進路における特徴
①法科大学院への進学率が高い
京都大学法学部の就職を見る前に、まず、進路の特徴を把握しておく必要がある。
というのは、京都大学法学部の特徴として、大学院進学、特に、ロースクール(法科大学院)への進学者数が大変多いのだ。
学部卒業生の進路 | 統計で見る法学部・法学研究科 | 京都大学 法学部・法学研究科
上記のリンクは、京都大学法学部の公式HPからである。直近の時点までアップデートされていないが、毎年、20~25%程度がロースクール(法科大学院)に進学しているようだ。
近年では、制度改革の影響もあり、東大や京大の様なトップ校の法学部の生徒の間では予備試験の利用者が増えている模様で、時間とお金がかかる法科大学院進学者のシェアは頭打ちになっているようなので、京大法学部の法科大学院進学率は高位にあるようだ。
実はこの比率は東大法学部よりも高い。東大法学部の場合は、2017年度のデータだと、法科大学院への進学率は17.4%である。従って、京都大学法学部の学生の法科大学院進学率は全国トップでは無いだろうか。
予備試験経由で司法試験を目指す学生もいるだろうから、京都大学法学部の特徴として、法曹志望者が多いということが言えるだろう。
②公務員への就職者もそれなりに多い
京都大学法学部の特徴として、公務員に就職する学生もそれなりに多い。毎年、国家公務員と地方公務員とを合わせて、約1割程度の学生が公務員になっている。
もっとも、この比率は、2017年度の東京大学法学部(85人/396人=21%)の数値と比べると、その比率は低い。
2. 京都大学法学部の民間企業への就職状況について
上記の通り、京都大学法学部の場合、約2割位の学生が法科大学院に進学し、他に法科大学院以外の大学院に進学する者や、公務員となる者が多い。
従って、民間企業に就職する者の比率は約半分とかなり少ないことが特徴である。
京都大学の就職に関するディスクロは大変よく、就職者が1人でもいる企業名を全て開示してくれているが、1人の就職先も含めるとかなりの量になるので、2名以上の就職先に絞って記載すると、以下のようになる。(民間企業のみ)
京都大学法学部(就職者数 210名) | |
企業・団体名 | 人数 |
三井住友銀行 | 10 |
厚生労働省 | 6 |
東京海上日動火災保険 | 5 |
日本生命保険 | 4 |
関西電力 | 3 |
京都府 | 3 |
日本放送協会 | 3 |
野村證券 | 3 |
PwCコンサルティング | 3 |
マッキンゼー | 3 |
みずほFG | 3 |
三井住友信託銀行 | 3 |
三菱UFJ銀行 | 3 |
アウトソーシングテクノロジー | 2 |
アクセンチュア | 2 |
EY税理士法人 | 2 |
NTTドコモ | 2 |
近鉄グループホールディングス | 2 |
経済産業省 | 2 |
商船三井 | 2 |
住友生命保険 | 2 |
住友電気工業 | 2 |
総務省 | 2 |
第一生命保険 | 2 |
大和証券 | 2 |
西日本旅客鉄道 | 2 |
農林水産省 | 2 |
パナソニック | 2 |
PwCコンサルティングあらた有限責任監査法人 | 2 |
丸紅 | 2 |
明治安田生命保険 | 2 |
楽天 | 2 |
(出所:京都大学HP 「2018年度卒業・修了者の進路状況」より外資系金融キャリア研究所作成)
このリストにある企業への就職者数合計が90名で、全民間企業就職者の約4割しかカバーしないので、特定の企業や業種には他の有力校と比べて集中していないように見える。
また、関西電力、近畿グループホールディングス、JR西日本という関西ローカル的な企業もランクインしているものの、その割合は特に顕著とは言えず、京都大学経済学部と同様に、中央志向が結構強いのではないだろうか?
なお、いわゆる、高就職偏差値企業・人気企業ランキング的な視点からすると、京都大学経済学部の方が、就職状況はいいようにも見える。
(京都大学経済学部の就職状況についてはこちら。)
3. 京都大学法学部の就職の課題について
①多くは弁護士の将来のステイタス性に掛かっている?
京都大学法学部の就職先のトップシェアは、法科大学院であり、その比率は約五分の一もあり、東京大学法学部よりも高い比率となっている。おそらく、日本の大学で最も法科大学院進学率が高い法学部であろう。(ちなみに、法科大学院進学率は、早稲田、慶応の法学部で約1割、一橋大学の法学部で約15%程度である)
また、予備試験での合格実績も高いので、法科大学院と予備試験ルートを合わせると、法曹志望者の割合は高いと思われる。
法科大学院卒業後、裁判官や検察官になる者もいるが、大半は弁護士になるだろう。
そうすると、弁護士の社会的評価が京都大学法学部(というか有力校の法学部全体)に影響をするだろう。
司法制度改革が浸透する前、リーマンショック前くらいまでは、弁護士のステイタスや収入レベルは高く、司法試験合格者数や合格率が高い法学部は評価も高かった。
しかし、既に弁護士の人気や評価は下がり始めているので、10年~20年後どうなるのかが気になるところである。
②外銀・外コンの志望者は増えるのか?
東京大学法学部の場合、昔は、「上位三分の一は司法試験を目指す」と言われていた時代もあったようだが、最近では、最上位層が外銀・外コンを志望するようになってきているという。
この点、京都大学法学部の場合は、外銀・外コン志向はそれ程顕著で無いようにも見えるが、2018年度の就職結果を見ると少し動きがあるようだ。
それは、コンサル(総合系ファームを含む)への就職者が目立ってきたということだ。例えば、マッキンゼーに3名就職している。また、総合系ファームにおいては、PwCコンサルティング(3名)、アクセンチュア(2名)、アビームコンサルティング、クニエ、KPMGコンサルティング、デロイトトーマツコンサルティング、ベイカレント・コンサルティングと幅広く就職している。
これだけで13名なので、就職者の5%以上がコンサルティング・ファームに就職している。今後の方向性が注目される。
他方、2018年度卒業生については、外銀就職者は見当たらなかった。もっとも、金融機関への就職者のシェアは例年15%程度であり、特に少なくはない。また、上位には、三井住友銀行、東京海上日動火災、日本生命、野村證券といった大手金融機関がランクインしているので、金融機関の人気が無いということは特に無さそうだ。
なお、総合商社については、三菱商事1名、三井物産1名、住友商事1名、丸紅2名の合計5名であった。母集団が少ないので、何とも言えないが、総合商社の就職者の割合は特に高いということは無さそうだ。
感想
京都大学法学部の特色は何といっても、法科大学院進学率の高さである。東京大学法学部よりも比率が高いというのは意外感があるかも知れない。法科大学院の他、予備試験組も含めると、かなりの割合の法学部生が法曹を目指しているということがうかがえる。
しかし、法曹(或いは公務員)を目指さないのであれば、法学部に進学する意味は何かということになる。最初から民間企業への就職を考えているのであれば経済学部の方がいいのではないかということだ。
この点は、中長期的に興味深いところだ。