1. 社内弁護士の人数の急増
司法制度改革に伴う弁護士数の急増に伴い、社内弁護士の人数も急増しているようだ。
従来は、弁護士というのは独立して自分の事務所を持つか、あるいは、渉外事務所のパートナーを目指すというのが一般で、社内弁護士というのは、極めて例外的な位置づけであった。
ところが、司法制度改革に伴う弁護士数の急増に伴い、社内弁護士の人数も急増しているという。
しかし、ほとんどの場合、社内弁護士の年収等は、独立している弁護士と比べると大きく見劣りするケースが多いと考えられ、これから弁護士を目指す学生は、以下の点を吟味した方が良いと思われる。
①独立弁護士と社内弁護士との年収格差
弁護士会の統計等を見ても、年収に関しては、独立弁護士の方が社内弁護士よりも明らかに多い。
全然業界は違うが、イメージ的には、開業院の年収が勤務医の年収の2倍位あるのと似ているのかも知れない。
②年収3000万円以上の社内弁護士もいるというが…
上記引用ブログの中で紹介されている日本組織内弁護士協会の2016年実施のアンケートによると、社内弁護士の年収に関して、
・年収5000万円以上:2.9%
・年収3000万円~5000万円:1.6%
・年収2000万円~3000万円:3.7%
と、そこそこの年収がある人もそれなりにいるではないかというように見えるかも知れない。
しかし、留意しなければならないのは、現在年収が3000万円以上ある社内弁護士は、法務部長、MDクラスであって、年齢的には40~50代が多い。
合格者数500人~700人時代の旧試合格者で、勝ち逃げできるような人たちであって、今からそのポジションを目指すのは競争がし烈であり、そこに就くことができると考えるのは楽観的である。
ある程度参考になるのは、平均年収が1143万円(2016年調べ)という点であり、今後これが維持される保証もない。
③社内弁護士はサラリーマンであり、「経費」が使えない
さらに、社内弁護士の夢を削ぐようなコメントをして申し訳ないが、社内弁護士の場合はサラリーマンなので、個人事業種の強みである「経費」が使えない。
このため、年収2000万円以上の勝ち組社内弁護士のポジションにつけたとしても税金がタンマリと取られ、同じ年収レンジの独立弁護士のようなゴージャスな生活が送れない。
ただし、社内弁護士の場合には、手厚い退職金と年金があるので、老後については有利かも知れないが。
2. それでも社内弁護士になりたい人はどうすればいいか?
それでも自分は、個人で独立経営するのは面倒くさいし、経費なんて使いたくない。
そして、大きな組織で働きたい、という人もいるだろう。
そういう場合、社内弁護士で高い年収が狙えるのは以下のパターンであろう。
①外資系金融機関の社内弁護士
社内弁護士の最高の勝ち組は、外銀のGeneral Counsil(MD)、或いは、法務・コンプライアンス本部長である。
リーマンショック前の最盛期は、Max年収2億円、大手外銀のMD/法務・コンプライアンス本部長であれば、年収1億2000万円位が相場であったろうか。
この当時は、社内弁護士と言っても最高峰の大手外銀MDに就任できた弁護士は、渉外事務所のパートナーからもうらやましがられる存在であった。
しかし、リーマンショック後は、トップクラスなら年収1億円もいるかもしれないが、大手外銀MDでも7000万円クラスであろうか。
ただ、この大手外銀のMD、法務・コンプライアンス部長のポジションは1社に1つしかない。
また、ナンバー2のSVP/Directorポジションも、1社あたり1~2名程度であり、年収水準は、4000~5000万円である。
極めてポジション数は限られていることに留意しなければならないので、なかなか狙ってなれるものではない。
外資系運用会社(バイサイド)には、ほとんど社内弁護士のポジションはなく、ヘッジファンドの良いポジションで3000~4000万円くらいである。
そうなると、渉外法律事務所のパートナーよりも少なくなってしまう。
②外資ITのシニア・リーガルポジション
外資系金融以外で、高給が期待できる社内弁護士のポジションは、GAFA、マイクロソフト、シスコシステムズ、オラクル等の外資ITのシニア・リーガルポジションである。
部長(General Counsil)だと、ベース(基本給)、ボーナス、RSUと呼ばれる株式ボーナスを全て合わせると5000万円以上のポジションもある。
また、ナンバー2のSenior Manager或いはDirectorのポジションで3000万円程度が期待できる。
もっとも、これらのポジションの数は業界全部で数十人分くらいしかないので、狙ってなれるものではない。
現在就任している人達は、ほとんどが四大渉外事務所或いは外資系法律事務所からの転職組なので、生え抜きで狙うのは厳しいだろう。
また、「外資系」といっても、製薬含むそれ以外のメーカーの社内弁護士の給与水準は大幅に見劣りする。
そのあたりの社内弁護士の年収事情については、こちらの過去記事もご参照下さい。
3. 国内系企業の社内弁護士について
①大前提:そもそも法務部長は社長になれない!?
国内系企業の社内弁護士の年収を考える前に、まず、そもそも論なのだが、法務部長は社長になれるポジションだろうか?
答えは明らかでNoである。
経理部長や人事部長、営業部長は社長になり得るポジションであるが、法務部長は社長どころか代表取締役までもなれない、端っこのポジションではなかろうか?
したがって、社内弁護士になるというのは、そういうことであり、あくまでもスペシャリストであり、取締役等への出世を期待してはいけないポジションなのだ。
これが出発点である。
②国内系企業の社内弁護士の年収について
基本的に、国内系企業の社内弁護士の年収は、非弁護士の法務部員、要するに、一般社員と同じである。
従って、業種と役職によって異なるが、せいぜい1000万円代前半程度である。若手であれば、1000万円にすら満たない。
もちろん、退職金とか企業年金といった福利厚生には恵まれているが、それは一般社員も同じである。
別に、社内弁護士の退職金や企業年金が一般社員よりも良いということはない。
ということは、弁護士になるまで、既習2年、新試と合格発表まで半年、修習1年を考えると、最短でも4年は入社が遅れてしまう。
すると、その分、生涯賃金は少なくなってしまう。
それに、なるまでのコストとプレッシャー、リスクを考え合わせると、わざわざ一般社員と同じであれば、最初から社内弁護士になるためにわざわざ弁護士資格を取ろうとするのは割に合わないのではないだろうか?
4. それでは、どうしたら良いのか?
今、既に弁護士資格を持っており、ワークライフバランス、その他の理由から社内弁護士を検討するのはわかる。
しかし、今法学部生で、最初から社内弁護士になるのを前提として法科大学院を目指すのは何ともコスパが悪いのではないだろうか?
東大法学部生の場合は、先輩や同期のキャリア、また、周りの目?、から弁護士位にならないと格好がつかないのではというプレッシャーを感じるのかも知れない。
これは、早慶、或いは、一橋の法学部生との違いであろう。
もちろん、法律専門職になりたくて弁護士を目指したいというのであれば全く問題はない。ただし、そういった場合には、
(1)独立弁護士
(2)渉外弁護士のパートナー
を目指すのがいいのではなかろうか?
特に、法律職に興味は無いし、独立とか個人経営は面倒くさいなと考えるのであれば、サラリーマンの最高峰である、外銀とかの金融キャリア、あるいは終身雇用の最高キャリアの総合商社を目指してみればいいのではないだろうか?
東大法学部生といえども、弁護士の資格を取るのは大変だが、外銀とか総合商社であれば、相応の対策をとれば、それほど難しいわけではないだろう。