外資系金融に特化した転職エージェントに聞いた話であるが、フィンテック系ベンチャー企業から、外資系金融機関に転職したいという人(Aさんとする。)がいるということだ。
どういうことかというと、Aさんは外資系証券会社で、バックオフィス(人事、経理、コンプライアンス)の職に長年就いていたのだが、何を勘違いしたのか、最近(おそらく昨年)、フィンテック系ベンチャー企業に転職をしたのだという。
AさんはバックオフィスであるがVPのポジションに就いていたので、基本給とボーナスを合わせて、年収2000万円以上もらっていたという。
ところが、フィンテック系ベンチャーに転職した際には、年収は1000万円程度まで減ってしまったのだ。(もっとも、ベンチャー企業で年収1000万超えというのは、トップクラスなのだが…)
しかし、働いて見たものの、やはり外資系金融機関に戻りたいのだという。
1. 外資系証券会社からベンチャー企業にわざわざ行く理由
ビットフライヤー、Wantedly、Folio、ココナラ等、外資系証券会社で働いていた人が、自らベンチャー企業を起ち上げるというのはちょくちょくあるようだ。
外資系証券会社もリーマンショック以降は、以前のように派手に儲かる仕事ではなくなっているし、特に欧州系はビジネス的に厳しいところも多く、仕事に夢を見出しにくくなっているのかも知れない。
特に若手の場合は、まだまだバイタリティにあふれ、自ら起業をしようという能力や意欲であふれている者もいるようだ。
また、自ら起業を行わなくても、CFO的なポジションで、ストック・オプション付きで有力ベンチャー企業に転職するというケースも多くはないが、時々は聞く話だ。
さらに、一昨年の仮想通貨の異様な盛り上がりなどもあり、フィンテックというのが人気ワードになったこともあり、自分もそれにあやかろうということで、そちらの業界に転職した人達もある程度いるようだ。
外資系証券会社といっても、完全な規制業種であり、横並び体質の強い業界である。周りの人が動き出すと、自分も同じようにやりたいという人はいるようだ。
Aさんは、どういった理由でわざわざ高給を捨ててまでして、フィンテック系ベンチャー企業に行ったのかはよくわからないが、とにかく、行ってそうそう失敗したと思っているようだ。
2. 結局、大事なのは年収
転職する瞬間は、「ベンチャー企業の方がやりがいがあるのでは?」とか、「ベンチャー企業に行った方が『成長』できるのでは?」とか、「ベンチャー企業に行けば新しいスキルが身に付くのではないか?」、というポジティブな理由がいろいろ浮かんだのだろう。
しかし、「やりがい」「成長」「スキル」というのはいずれも主観的な概念であり、何ら保証されるものでも何でもない。
他方、基本給とかボーナスの金額とか、退職金制度というのは客観的なものである。
いざ、新しいベンチャー企業という世界に行ったものの、主観的なメリットは何ら見出せなかった場合には、結局、大幅な年収ダウンという現実しか残らないということはよくある話だ。
3. 実は、この手の話は昔から聞く話
ベンチャー企業というのは、景気のサイクルによって、一気に資金流入が起こるタイミングが定期的に発生する。
いわばベンチャー資金バブルのようなものだ。
古くは1999~2000年の東証マザーズ創設、第1次インターネットバブルの頃だ。この時期にも、サイバーエージェント、光通信など、外資系証券からベンチャー系企業やそのファンドなどに流れる人達は一定数いた。
その次は、2005~2006年頃のライブドアでホリエモンが登場した第2次インターネットバブルの頃である。
この時期は、ダビンチ、PMC、アーバンコーポレーションといった不動産ファンドバブルでもあったので、外資系証券会社から各種ベンチャー企業に行った人たちがいた。
そして、現在はアベノミクス以降の第3次ベンチャーブームなのだろうか?
外資系証券会社からベンチャーの世界に移りたがる人達がちらほらと見られる(もちろん、マイノリティであるが)。
4. 結局は、少しでも迷えば、行かないのが吉?!
いつの時代も、外資系証券会社からベンチャー業界に行って、成功する人もいれば失敗する人もいる。
従って、どちらが絶対正解とは言い切れないものの、確率論的には、外資系証券に残る方が正解のようだ。
年俸を半減させてまでして、ベンチャー企業に行くのは、あまりおすすめできないのだ。
結局、Aさんの場合も、条件を下げれば、外資系金融の世界に復帰することは不可能ではないと思うが、フィンテック系ベンチャーでの経験は全く評価されない。
というか、レジュメが汚れ、変人扱いされるだけである。
外資系証券からベンチャーに行きたいと思った場合には、いろいろな人に相談して、慎重に考えたいものだ。