1. 外資系金融機関の内部監査(インターナル・オーディット)とは
ここでいう外資系金融機関とは、外銀と呼ばれる外資系証券会社の他、バイサイドとも呼ばれる外資系運用会社、シティバンク等の外資系商業銀行、さらにプルデンシャル、アクサ等の外資系保険会社も包含する、広い概念である。
要するに、内部監査というのはありとあらゆる金融機関にある職種なので、金融機関の業種を問わず存在する。
職務内容は、基本的に国内系金融機関の内部監査部(或いは検査部)と同様で、
法令や社内規則に従って、各部店を臨店の上、監査(検査)を実行し、内部監査レポートを作成し、指摘事項のフォローアップまでを実行するという仕事である。
2. 外資系金融機関の内部監査(インターナル・オーディット)の特徴
内部監査は、トレーディング、セールス、IBD等とは異なり、直接に収益を生み出す部門ではない。従って、バックオフィス(人事、経理、コンプライアンス等)の1つなのだが、外資系の場合、以下のような特徴を有している。
①業界横断的な仕事(業界が変わっても職務内容が余り変わらない)
外資系金融機関というと証券、運用、銀行、保険を包含する大雑把な括りであるが、収益部門でもバックオフィスでも、業種が違うと職務内容も異なるため、互換性は低い。従って、同じ経理部とかコンプライアンス部でも、証券⇔運用、証券⇔銀行、運用⇔銀行、といった行き来はあまり多くない。
しかし、内部監査の場合は、社内規則に沿って監査を進めるため、あまり業種による差が出ない。理論上は、内部監査は金商法、銀行法、投信法、保険業法といった各種の業法に精通していて、それに基づく内部監査を実行すべきなのだが、実際上は、内部監査の人達は法令関係にあまり詳しくないことが多い。法令系の問題は、法務コンプライアンス部門に任せているという感じである。
②内部監査部員に占める外国人の割合が高い
人事とか法務コンプライアンスとかは、ローカルな法令や実務に精通している必要があるため、今では、外資系でも部員全員が日本人、少なくとも日本語が読めるということが多い。
他方、内部監査の場合は、最近は事情が変わったかも知れないが、比較的外国人(特にアジア系の人)の割合が高い。これは、転職事情に影響してきている。
③仕事内容
本来は、広い視点で金商法、銀行法といった法令や業界ルールに従って内部管理に関するリスクを洗い出して、その対応策を指摘するというのが理想なのだが、上記の通り、内部監査部員はローカルな法令や実務に詳しくないという事情があるため、細かな手続き上の不備を指摘するのみの業務内容になっていることが多い。
例えば、経費の請求書のサイン漏れ、社内規則関係の記載上の不備、社内研修に関する出席リストのチェック、マネロンに関するグローバルポリシーとの不整合等の指摘である。
このため、外資系金融の日本の拠点としては、金融庁/各業界団体の検査対応に
役立たないし、実質的な内部管理態勢の強化につながる仕事じゃないので、内部監査部門を強化する実益が乏しい。
こういった事情は、転職マーケットにも影響を与えている。
3. 外資系金融機関の内部監査(インターナル・オーディット)の年収
年収については、証券、運用、銀行、保険と、業種を問わず総じて低い。この中でも、一番年収水準が高いと思われるのが、証券(外銀)であるが、ベースサラリーは他のバックオフィスと同じである。
①証券会社(外銀)の場合
従って、アソシエイトの場合は600~1200万円、VPの場合は、1500~2000万円、MDの場合は、2000~3000万円といった具合である。
もっとも、内部監査の場合は、昇格とかタイトルの付与が、経理やコンプライアンスといった他のバックオフィスと比べると辛めなので、内部監査でVP以上のタイトルをもらえるのは厳しく、MDをもらえるケースはあまりない。内部監査部長で、SVPとかDirector位であろうか。
また、各タイトルに応じたベースサラリーのレンジも、経理やコンプライアンス
と比べて、低めである。例えば、同じVPでも、経理やコンプライアンスが2000万円のベースであるところ、内部監査の場合には1600~1800万円位であったりする。
ボーナスは、外銀のバックオフィスの場合、総じて低いが数百万円レベルであろうか。内部監査で1000万円以上のボーナスがもらえる可能性があるのは内部監査部長位である。
②運用会社(バイサイド)の場合
運用会社の場合は、外銀とは異なり、従業員数が10~50人程度の会社が多く、内部監査の専属スタッフを東京に置いていないケースも多い。内部監査は親会社/関係会社に委託してもOKなのだ。
従って、会社数は多い割に、内部監査のポジションの数は少ない。そして、外銀同様に年俸水準は運用会社の中でも高くない。
例えば、VPクラスでトータル年収が1500~1600万円、1ランク上の部長クラス(SVP/Director)で、トータル年収が2000万円前後であろうか。
③外資系保険会社の場合
プルデンシャル、AIG、アクサ、マニュライフ、メットライフといったところであるが、外資系と言っても保険会社の場合は総じて年収は低い。日本生命や第一生命のような国内系トップの企業より低かったりする。
他方、外銀や運用会社のような、社内における格差はあまりない。従って、VP(マネージャー)レベルだと、トータル年収で1200~1400万円、1ランク上のシニア・マネージャーで1500~1800万円位であろうか。
外資系保険会社の場合は、内部監査に限らず、トータル年収が2000万円を超えるのは、Director(執行役員)クラスのかなりの上級管理職なので、わざわざ国内系大手金融機関から転職する意味はあまりない。
4. 外資系金融機関の内部監査(インターナル・オーディット)の転職について
以上のように、年収的にも、社内ステータス的にも、外資系金融機関で内部監査を目指す理由は無い。同じ、バックオフィス系なら、人事・経理・コンプライアンス・リスク管理といったところを目指した方が、将来の転職力や年収水準的にも恵まれている。
それでは、内部監査への人材の流入経路はどうなっているかというと、1つは会計事務所系(ビッグ4)の内部統制に関するスタッフや、国内系金融機関の若手(30歳以下)で英語が得意であるが、これといったスキルがない人が外資系のファーストキャリアとして狙うには適しているからだ。
そういった場合、内部監査を長くやり続けても余りいいことは無いので、コンプライアンスとかリスク管理に社内異動で動くというのが1つのキャリアプランである。但し、その場合には社内の当該部署の役職者と良好な関係を築いておく
ことが必要となる。
また、内部監査は、内部統制といいかえることができ、外資系製薬会社、外資系事業会社の内部統制関連部署を狙うという選択肢もある。もちろん、IPOを目指しているベンチャー企業は内部統制強化が求められるのでそういうところを目指すという手もある。
このように、内部監査を軸に、外資系金融業界でキャリアを重ねて行くのは必ずしも得策とは思えないが、内部監査は金融業界以外でも内部統制というニーズがあるので、幅広く活躍できるところはあるだろう。