東大法学部生が、社内弁護士の年収と転職について考えておくべきこと

1. 何故「東大法学部」生について問題となるのか?

弁護士の中でも社内弁護士というのは、まだまだマイナーな存在のようであり、以下の日本組織内弁護士協会の統計によると、2018年6月時点で社内弁護士の人数は2,161人で登録弁護士総数(約4万人)の5%を占めるに過ぎない。

もっとも、社内弁護士の人数は顕著な増加傾向にあり、いわゆる街弁と呼ばれる個人や中小企業を主たるクライアントとする個人経営の弁護士事務所が飽和状態にあると指摘されていることを踏まえると、弁護士キャリアを目指す学生にとっては、社内弁護士も念頭において置いた方がいいかも知れない。

しかし、後述するが、結論的には社内弁護士の年収水準は決して高いとは言えない。

東大法学部生の場合だと、弁護士以外にも、外資系金融機関(外銀)、外資系コンサルティング会社(外コン)、総合商社など、他に多くの高収入で魅力的な職の選択肢が豊富にある。

約3年半(既修者コース2年、新司法試験から合格発表まで半年、司法修習1年)という長期間と、法科大学院の授業料&その間無給であることの機会費用を踏まえると、将来社内弁護士になった場合の年収や転職事情を予め踏まえて置いた方がいいと思われる。

それを踏まえた上で、民間企業に就職するか、法科大学院に進学して弁護士を目指すかについて検討すべきなのだ。もちろん、渉外事務所だろうが、街弁だろうが、社内弁護士だろうが、法律専門職がとにかく好きで、どうしても弁護士になりたいというような意思が明確であるならば、外銀・外コンといった他の人気職種を考慮する必要は無いだろう。

2. 社内弁護士の年収と転職について

社内弁護士の年収については、下は500万~、上は5000万円超とピンキリである。そこで、以下、職種別に、多くの年収が期待できると思われる順に紹介する。

外資系金融機関の社内弁護士

外資系金融機関といっても、種類はいろいろあり、外銀と呼ばれる外資系証券会社、バイサイドと呼ばれる外資系運用会社(ヘッジファンド含む)、それ以外の外資系商業銀行、外資系保険会社に区分できる。

この中で、一番ポジションが多いのが外銀であろう。

具体的には、ゴールドマン・サックス証券、JPモルガン証券、メリルリンチ証券、モルガン・スタンレー証券、UBS証券、ドイツ証券、バークレイズ証券、クレディスイス証券、BNPパリバ証券等である。

外銀は総じてリーマンショック前は、かなりの高給であったが、現在ではどこも下がってきている。もっとも、General Counselという法務部門のヘッドであれば、今でも、基本給4000~5000万+ボーナスという水準である。

ボーナスも業績が良ければ基本給と同額位出る場合もあるかも知れないが、そうでない場合には数百万円位しか出ない場合もある。

もっとも、General Counsilというのは部門長なので、各社1つしかない。その1ランク下のDirector/SVPレベルであれば、基本給が3000万円前後、ボーナスが数百万~1000万円というところであろうか?

人数的なMajorityはその下のVPと呼ばれる課長クラスのポジションであり、基本給が1800~2500万で、ボーナスは数百万円レベルであろうか?

これだけ見ると、「それだけあれば十分だよ」と思う人は多いかも知れないが、リストラやクビになるリスクはあり、50過ぎても働き続けることができるかどうかはかなり疑わしい。

他の外資系金融機関として、バイサイド(外資系運用会社)があるが、総じて社内弁護士のニーズは少ない。社内弁護士が存在しない外資系運用会社の方が多数ではないだろうか。

中には、ヘッジファンドの起ち上げ等でポジションが出てくる場合があるが、だいたい年俸水準は、基本給とボーナスを合わせて3000~4000万円位がメインと思われる。

次に、外資系保険会社であるが、保険会社の場合、「外資系」とついても、日系の会社とし比して、特に年収は高くない。外資系保険会社の場合、法務部長クラスでトータル年収1800万円と、2000万円に到達しないことは多い。執行役員クラスのタイトルが付かないと2000万円越えは難しいのかも知れない。

他方、ワークバランスはすこぶる良好だし、基本60歳の定年まで働くことも可能な雰囲気だ。

外資系IT企業の社内弁護士の年収

外資系金融というか、外銀の次に高額の給与水準が期待できるのは外資系ITである。具体的には、GAFA、マイクロソフト、シスコ、オラクルあたりの米国系の勝ち組IT系企業である。

これらの場合、Directorクラスのシニアな社内弁護士の場合、RSUと呼ばれるストックボーナス的なものを加えると、年収3000万円越えも可能だ。

ワークライフバランスも、外銀などと比べると良好である。

外資系製薬会社の社内弁護士

製薬会社は、MSD、ファイザー、ノバルティス、ロシュ、メルク、アストラゼネカ、ブリストルマイヤーズスクイブ、アムジェン、J&Jなど、欧米系の製薬会社が国際競争力を有しており、日本にも大きな拠点がある。このため、外資系製薬会社にも、社内弁護士は一定数存在する。

但し、外銀とは異なり、全般的な給与水準が、外資>国内という図式ではないので、あまり給与水準は高くない。

多いところだと、法務部長の場合、トータル年収が2500万円前後のところもあるが、1800万円レベルの会社も多いようだ。

ITを除く事業会社の場合には、2000万円のところで壁はあると考えておいた方がいいだろう。

④その他国内系企業の社内弁護士と年収

残るは、国内系企業の社内弁護士の年収ということになるが、業種を問わず、国内系企業の場合には、基本的に一般社員と同じだ。

例えば、あるメガバンク系証券会社の場合、課長クラスの社内弁護士の年収が1200万円と聞いたことがある。

また、メガバンク本体の課長クラスの社内弁護士の場合、1500万円という話を聞いたことがある。これは、多少は一般的な法務部員より優遇してもらっているのだろう。

総合商社の場合も、一般社員である他の法務部員と全く同じだ。一般社員と同じであれば、わざわざ最低3年半と手間とお金をかけて弁護士資格を取ったことが報われないということだ。

3. 社内弁護士になる意義

社内弁護士になるには、2つの経路が考えられる。

1つは新卒というか、司法修習を経て、直接社内弁護士になる経路だ。

もう1つは、一旦渉外法律事務所、或いは、外資系法律事務所で経験を積んでから、社内弁護士に転身するパターンだ。

前者の、そもそも新卒で社内弁護士、特に国内系の法務部に就職するのであれば、ほとんど弁護士資格を取得する苦労が報われないであろう。

また、注意しなければいけないのは、社内弁護士の経験しかないと、途中で渉外法律事務所や外資系法律事務所に転身することが難しいからだ。法律事務所と社内弁護士では、求められる仕事の内容が異なるとされており、また、社内弁護士の場合には多様なクラインアントと付き合うことができないからだ。

この場合、新卒で社内弁護士になってしまうと、他の弁護士としてのキャリアが制限され、将来は法務部長として社内で出世を目指すか、或いは同業他社に転職してキャリアアップを図ることが選択肢となる。

後者の、渉外法律事務所とか外資系法律事務所から、社内弁護士に転身するケースは、パートナーに慣れそうにないから、社内弁護士になるしかなかったという場合や、ワークライフバランスの良さを求めて社内弁護士になるケースが多いと思われる。

リーマンショックの前であれば、外銀の社内弁護士になると、5000万円以上の年収が期待できたので、サラリーアップの目的で転身する人も少なくなかったのであろうが、今ではそのような美味しいポジションを探すのはかなり難しいであろう。

どちらかというと、新司法試験に移行後、アソシエイトを大量採用するようになり、一部しかパートナーになれない時代が到来しているので、社内弁護士としてのキャリアに活路を見出すしかないケースが多いと思われる。

もっとも、渉外法律事務所はあまりにも激務なので、社外弁護士になるとワークライフバランスは格段に良くなるというメリットはある。

4. 弁護士になるための多大なコストとリターンを考えた上で進路を決めよう

マスコミの報道により、弁護士になるのは以前と比べて大変ではなくなったと思われているフシもあるし、旧試合格者の人達は新試合格者を下に見る傾向はある。

しかし、法科大学院に2年もかけて受験資格を得ても、東大法科大学院ですら50%の合格率しかない。ここで躓くようなら、そもそも渉外法律事務所への就職が厳しくなる。

そういったプレッシャーも受けながら、東大法学部生とはいえ、少なくない負担とリスクを負って弁護士になっても、社内弁護士になるのでは、リターンが不十分と感じないだろうか?

もちろん、厳しい競争を勝ち抜いて渉外法律事務所のパートナーになれば、多額の年収とステイタスを得ることができる。

従って、学部の法律科目の講義とか試験とかを通じて、これは行けそうだと思えば、法科大学院に進学するというのはアリである。

他方、このあたりでスムーズに行かないようであれば、外銀とか外コンとか総合商社、場合によっては、起業という途も残されている。

まあ、いろいろな可能性があるので、周りが法科大学院を目指すからという理由だけで、自分も追随するようなことが無いよう、具体的に他の選択肢を十分吟味した上で意思決定すべきであろう。

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