1. そもそも、採用責任者の40~50代のオジサン達はES書けるのか?
今では就活の際の必須アイテムとなってしまっているESであるが、20~30年前にはあんなものは存在しなかった。
従って、総合商社等の人気企業で採用責任者の地位にあるような40~50代のオジサン達は、そもそもESなんて書いたことがないし、じゃあ、今だと素晴らしいESを書けるのかというと、そういうわけではない。
例えば、典型的な「課外活動で学生時代に頑張ったこと」と言われても、当時は、起業なんてありえなかったし、留学も今ほど行く必要性はなかった。(総合商社で就活時の英語力は問われなかった。)
結局、実際にやっていたのは、平凡なバイト、ゼミ、サークル、麻雀といったあたりで、体育会であればそれだけで結構光ったものだ。
このため、大したESが書けるようなネタがあるわけではない。(そもそも当時は、総合商社は今ほど難関では無かったので…)
2. それでもESが無くならない理由
ESなんて本来採用活動に要らないものだ。
要らないものだから、事実、中途採用でESなんて書かされることはない。
それだと、企業側も学生側も面倒だからESなんて止めてしまえばいいのだが、存続し続ける理由としていかのものが考えられる。
①平等にこだわる日本における就活時の機会均等のため
日本は平等性、機会均等にこだわる社会なので、誰にでも挑戦する機会だけは与えたがっているようだ。
だから、総合商社なんて、実際は学歴によってフィルタリングされていることは明らかなのに、一応どこの学生にもチャンスはあるような体裁を取っている。
したがって、倍率が100倍超えということになってしまうのだ。
上に引用した人気ブロガーのちきりんさんの記事にあるように、就活においては応募は無料で無制限にできるので、ダメもとでも応募するだけはしたいという学生が多いのだ。
また、総合商社等の超人気企業もズルく、悪者にはなりたくないので、誰からでもESを使って応募をして下さいと門戸を広く開放している振りをしているのだ。
②Webテストと併せて、正々堂々と学歴フィルタリングができる
ホンネだと企業側も学生側も気づいているのだが、人気企業が欲しい学生というのは最初からある程度決まっていて、学歴で選別するのが効率的である。
しかし、露骨にそれをやると社会的に悪者になってしまうので、上記のように誰でもESを使って応募することを受け入れることとした。
ところが、一旦、ES制度を設けて誰でもWelcomeという体裁さえ作ってしまうと、そこから先の選考過程はBlack Boxなので、企業がやりたいようにできる。
さらに、昔は存在しなかったWebテストというものを組み合わせると、最初から学歴フィルタリングで通過できなかったにも関わらず、ESの内容+Webテストで落とされたと学生に思ってもらうことができる。
学歴だけで落とされるのは納得が行かないが、ESの内容審査+Webテストで落とされるのだと何故か納得してもらえる。
ここにESが存在し続ける理由がある。
③文章力をチェックできる
これは、上記とは異なり、ESが存在するポジティブな理由であるが、ESを見ると文章力をチェックできる。
後述するが、ESで大事なのは内容の凄さではなく、一貫性、論理性、わかりやすい文章力である。
実際、社会人になると、わかりやすい文章、論理性のある文章を書くようにうるさく指導されるし、これは社会人としては重要なスキルである。
もっとも、文章力は学生の時点で上手くなくても、どうせ会社に入ると鍛えられるので問題ないのだろうが、人気企業の場合であれば、選別の一要素として考慮する必要があるのだろう。
3. 過去の内定者のESを参考にすると落ちるか?
確かに、総合商社の過去の内定者のESを熱心に研究している学生は、大抵落ちるということは聞く。
しかし、そもそも、総合商社の場合は競争率が100倍以上であるので、内定者の過去のESを参考にしてもしなくても、確率論的に落ちる学生が圧倒的に多いので、そのようなイメージがあるのかも知れない。
ただ、重要なのは、過去の内定者のESをある程度参考にするのは構わないが、囚われ過ぎるべきではないということだ。
後述するが、総合商社等の人気企業の内定のためには、ESよりも重要なファクターがあるからだ。
なお、過去の内定者のESに囚われ過ぎないようにすべき理由は、以下の通りである。
(1)過去の内定者のESが全て優秀作品というわけではない
上述した通り、内定をもらえるかどうかの判断においてESは判断要素の1項目に過ぎない。
例えば、総合商社の場合、外銀・外コン内定持ちは明らかに別枠となるので、そういった学生はESを真面目に書く必要が無い。
また、総合商社の場合は3/1以降のOB/OG訪問が実質的な選考面接となるので、複数回に亘るOB/OG訪問の評価が高ければ、ESが少々しょぼくても、それだけで落とされることは無い。
さらに、公式な面接に呼ばれるかどうかに際しては、学歴、英語(海外経験)、資格、体育会等の他のスペックを見た上で総合的に判断されるので、他のスペックが高ければ、相対的にESのハードルは下がることとなる。
このため、内定者したというのは別にESが明らかに優れていたことを意味しないので、世の中に出回っている過去の内定者のESは全てが優秀作品とは限らないのである。
(2)見られるのは内容の凄さではなく、文章力や一貫性であること
これは勘違いしている学生も多いのだろうが、ESというのは内容(経験)の凄さを競う場ではないということ。
もし、内容(経験)の凄さで決まるというのであれば、箱根駅伝で区間賞とか、東京六大学で首位打者とかが自動的に内定ということになるが、そうでは無いことは明らかであろう?
別に、スポーツの記録を持っている学生が欲しいわけでは無いのだ。
ところが、ESの内容を盛りたがる学生が如何に多いことか?
あるのかどうかわからないが、ゼミの大会で1位になったとか、弱体サークルの順位・記録が上がったとか、バイトの売り上げを倍にしたとか、とにかく、「順位」「数量」「表彰」なんかを盛りたがる学生が多い。
みんな競争率が高いことを意識していて、他の学生に差別化したいという焦りがあるのはわかるが、見られるのは、内容の凄さではなくて、わかりやすい文章力、論理的な一貫性といったところなのだ。
学生時代における活動や経験、性格、考え方は人それぞれだし、それを真似しようとしても採用側の意図とはズレるばかりだ。
4. ESで悩む前にやっておくべきこと
上記の通り、ESというのは選考のための1つのファクターに過ぎないし、過去の内定者のESに拘っても意味がない。
それよりも前に、以下のことをやっておくべきだ。
一言でいうと、SPECを上げるということだ。
①学歴対応
表向きには、採用担当者は「学歴フィルターは無い」と答えざるを得ないが、学歴による対応の差は明らかに存在する。
総合商社の場合、東大でも総合商社全落ちは存在するし、早慶でも、内定をもらえる学生の割合の方が明らかに少ない。
しかし、東大、早慶であれば、書面落ちすることは無い。
MARCH、関関同立の場合は、内定者数は少ないもののチャンスはある。
ここのレベルだと、書面落ちということは無く、「その他枠」、要するに、上智、ICU、地方帝大等の学生の間で競争に勝ち抜けば内定はもらえるのである。
他方、MARCH、関関同立未満となると事情が異なってくる。
採用実績の無いような学校の場合、学歴フィルターを通過することが難しく、そういった場合には、海外の大学に編入すると言った裏技を考えた方が早いということになる。
②英語力をつける
「外資就活」のデータによると、総合商社の内定者のTOEICスコアの中間値は880点という。
【21卒保存版】大学2年1月から始める外資系投資銀行内定へのロードマップ
これは平均値ではなく、中間値である。
いいか悪いかは別として、これが現実であり、総合商社から本気で内定をもらおうと思えば、英語を学習しTOEICを最低でも860以上にしておくことがMUSTとなっているのだ。
英語は生涯持ち越し可能な有用なスキルなので、1年生の内にやっておく他ない。TOEIC860程度であれば、MARCH、関関同立レベルであれば、半年間必死で頑張れば達成可能であろう。
英語すらTOEIC860点も取れないのであれば、とてもじゃないが、総合商社の内定のための競争に勝ち抜けれるとは考えない方がいいのだろう。
③資格、その他
これは、学生によって様々であるが、一定以上の学歴+英語力に加えて、何らかの売りというか、自分の軸となるスキル・経験・資格等が欲しい。
もちろん、体育会というのも有りである。
資格であれば、証券アナリスト試験(CMA)の1次レベルというのはおススメだ。金融の専門職にも使えるし、簡単な割に汎用性が高く、コスパが良い。
会計系であれば、簿記2級あたりがあっても構わない。
より強力なのは、起業経験である。
例えば、アフィリエイト・ブログでも構わないので、自分でメディアを作って月に10万円位稼ぐことができれば十分アピールになるだろう。
何故なら、総合商社は副業禁止だし、SNS等の情報発信にうるさいので、ネットビジネスには疎い人が多く、ネットで稼げた事実は結構なアピールになるからだ。
④十分な企業分析の実行
これはやっていて当然のことなのだが、これが苦手な学生がいかに多いことか。
反対に、これをきっちりやると、十分差別化できることとなる。
「企業分析」「企業分析」とよく言われるし、学生側もその必要性を十分認識しているのだが、正しいやり方についてはわかっていない学生が多そうだ。
単純に、各企業のHPを隅々まで見て勉強すればいいだけの話なのだが、漫然と眺めていても効率が悪い。
だから、少なくともIRに関する資料で、中期経営計画と直近の四半期ごとの決算説明会用資料は熟読しておきたい。
総合商社といっても、会社によってビジネスモデルは大幅に異なる。
例えば、三井物産は利益の大半を資源・エネルギーで稼ぐが、伊藤忠は資源関係は2割程度であり、生活、商品、B to Cを強みとしている。
どういった事業でどれくらい稼いでいるのか、どういった事業にプライオリティをおいて、どの程度投資をしているのか、直近手掛けたM&Aは何か等については、すらすら語れるようにしておくべきだ。
また、総合商社は凄く歴史のある会社であるため、独自の企業理念を持って入たりすることが多い。
これは金融とは異なるところであるが、企業理念を志望理由や面接のネタに取り込むことができれば面白い。
⑤プレゼンテーション能力
最後に大変重要なのが、このプレゼンテーション能力である。
上記の、学歴、英語、資格特技等、企業分析は、中身の問題であるが、それをうまく相手に伝えることができるプレゼンテーション能力のレベルによって、せっかくの中味が大きく異なってくる。
就活の場合も中途採用の場合も、書面(職務経歴書)と面接の双方で、プレゼンテーション能力が試されることになるので、これは一生効いてくるスキルなのだ。
社会的地位や収入がある能力の高い人でも、日本人の場合、プレゼンテーションが下手は人は結構いる。
とはいえ、就活レベルでスティーブ・ジョブズや孫正義さんレベルのプレゼンテーション能力が求められるわけではない。
分かりやすく、整理して伝えることができることができればOKだ。
その意味では、コンサルに興味が無くても、併願して練習するというのもありなのかも知れない。
プレゼンテーションというのは練習しないと上達しないので、就活生の友人同士でやってみたり、社会人の人に見てもらったりすることが望ましい。
プレゼンテーションのスキルについては、書店でも沢山並んでいる。
その中で、こちらはシンプルでおススメである。ブックオフでも安く買えるだろうから、買って練習してみて欲しい。
最後に
就活については、本音と建て前が入り混じっているし、今では下手にWebメディアが発達しているので、玉石混交の情報が溢れている。
そうした中、常識のウソも少なくないので、適切なの情報を取捨選択する能力が求められることになる。
ESについてもそうで、何でもかんでも内定通過者のES例をうのみにしなければならないということはないし、内容についても経験・実績の凄さを上げることばかりに気を取られないようにしなければならない。
就活は、結局、採用企業と求職者である学生との需給に基づくゲームであるので、地道にスペックを上げることが内定率向上につながるはずだ。
経団連の就活ルール廃止に伴い、今後はますます就活が早期化することは不可避だろうから、なるべく早く、というか、入学と同時に準備を始める方が勝率は高まるだろう。
大変かも知れないが、最初の就職先(ファーストキャリア)はその後のキャリア全体を左右するものなので、早い内からスタートを切って十分な準備をして臨みたいところだ。