外資系金融機関、特に、「外銀」と呼ばれる外資系投資銀行や、バイサイドと呼ばれる外資系運用会社(ヘッジファンド含む)では、転職を前提としたキャリアとなる。
必ずしも、転職に悪いイメージはなく、転職が昇格や昇給といったキャリアアップの重要な機会となることも少なくない。
そのため、転職というのはキャリア形成上重要な手段であるが、当然、成功する転職と失敗する転職とがある。
そこで、成功する転職を選択するためのチェックポイントを以下紹介する。
1. 転職先の上司となるべき人物のチェック
外資系金融機関の人は、通常何回かは転職を経験していることが多いのだが、何故か、ここでつまづく人は多い。
もちろん、直接面識が無い人の評判とかなかなか調べられないよということなのだが、業界でも悪名高い人であるにも関わらず、不十分な調査しかしないまま転職して、見事に最初の1か月で後悔するパターンだ。
この問題は、転職エージェントのビジネスモデルにある。
要するに、転職エージェントは転職が成立しさえすればフィーがもらえるので、転職した人が後悔しようが、後は野となれなのだ。
外資系金融は狭い世界なので、パワハラ傾向にある人、部下をいじめてすぐに辞めさす人とか、業界のことをそこそこ知っていればすぐにわかる悪名高い人というのはいるのだが、意外に基本的なことも調べないまま、転職して失敗する情弱な人は必ず存在するのだ。
これに対する対応策としては、長年付き合いのある転職エージェントが複数いると信頼関係ができて、そういった情報を教えてもらえるのだが、過去に取引が無い初めての転職エージェントからの案件だと、そういうところまで教えてもらえるわけではない。
また、必ずチェックすべき事項として、前任者の在籍期間、辞めた理由を探っておくことが重要だ。転職エージェントと長い付き合いが無ければ、本当の辞めた理由まではわからないかも知れないが、前任者が1年とか、2年未満で辞めている場合は、何か隠れたリスクが潜んでいる可能性があるので要注意だ。
2. 転職先企業の全体的な回転率
先ほどの1は、自分の直属の上司となる人物を十分にチェックしよということであるが、これはどちらかというと同僚とか社風のチェックである。
バイサイド(運用会社)の場合は、比較的小規模(10~30人)の会社が多数存在するので、働きやすい会社かそうでない会社か、評判をなかなか入手しずらいケースもある。
そういう場合には、その会社の全般的な回転率をチェックすることが重要だ。
例えば、自分が働くことになる部署の同僚、部下、又は、他の関連部署の人達がどれくらいの頻度で入れ替わっているかだ。
その会社の人達が1年以内で辞めていることが多いと、それはヤバイ会社であるリスクが高いので要注意だ。
転職が多い外資系金融機関といっても、突出して高い給与・賞与を払ってくれる会社は無いので、そこそこ働き易ければ、継続して同じ会社で働きたいし、そうすべきなのである。
それにも関わらず、短期で辞める人が多い会社というのは何らかの理由がある可能性が高いのだ。
3. その会社(親会社と東京の拠点)の収益状況
これは外資系企業全般の問題かも知れないが、東京の拠点のビジネスはそこそこでも、親会社がコケると、ボーナスの全体的な水準が下がってしまう(というかほとんど出ない)ことは良くある話だ。
リーマンショック以降だと、Libor不正操作事件とか、マネロン問題等で巨額(最大の罰金は何と1兆円!)の罰金を当局に支払う事例が相次いだ。
本社の罰金なんて、東京の社員の働き具合とは関係ないはずなのだが、こういうことがあると否応なしにボーナスは大幅に縮小してしまう。
このため、外銀のケースでは、欧州系の投資銀行とか、カナダとかアジアの良く知らない証券会社からスカウトの話があった場合には、その親会社の収益状況を良く調べる必要がある。
さらに、親会社が儲かっていても、東京の拠点が儲かっていないとやはり給与・賞与の水準が同業他社と比べて低くなってしまう場合がある。
特に、バイサイド(運用会社)の場合には、小規模な会社も多いので調べておくべきだ。
なお、外銀でもバイサイドでも、日本証券業協会とか日本投資顧問業協会の会員名簿を見ると、収益状況とか従業員数の推移を簡単に調べることができるので、スカウトの話が来ると、目を通しておくべきだ。
4. 東京の拠点長(現地法人の社長又は支店長)の交代の時期
これは、社長がレポーティングラインとなる部長以上の人達にあてはまる話だが、東京の拠点長が変わって、新しい拠点長が就任すると、優秀かどうかに関わらず、既存の幹部社員はごっそりと切られてしまう場合も少なくない。
このため、せっかくいい会社に転職できたと喜んでいても、1年後に拠点長が変更になって幹部の大幅な入れ替えとかがなされるケースがある。
もちろん、拠点長がいつ交代するかは予知することはできないかもしれないが、現拠点長の在任期間とか年齢等から、そのタイミングが当面なさそうか、近いうちに交代しそうかは、その企業の従業員や業界の噂等から何となくうかがうことができる。
もちろん、付き合いが長い信頼できる転職エージェントはこれに関して有用な情報を教えてくれる場合もあるので参考にできる。
5. ベースサラリー(基本給)以外の給与に関する情報
外資系金融機関の場合は、ベースと呼ばれる基本給と、年1回のボーナスの2本立てになっていることが大半である。
ボーナスについては初年度は保証してもらえることもあるが、翌年以降は、保証は無い。
このため、転職する時の条件は基本給がメインとなるのであるが、これは数百万円レベルであることが多い。ベースは外資系金融機関の場合、年収の一部に過ぎないが、ここに集中するあまり他の要素を見落としてはいけない。
例えば、退職金が重要であり、通常は1年あたりベースの1割位が支払われるのが相場であるのだが、中には退職金制度が無い企業もあるので要注意だ。
何故なら、退職金の税率は極めて低いので、在籍期間が長くなるほど、結構退職金というのは効いてくる。
同様に、確定拠出年金制度の有無も重要だ。これは年間でマックス60万円で実際に引き出すことができるのは60歳を過ぎてからだが、こちらも非課税なのが大きいのと、外国株・外国債券で適切に運用ができると、ドルコスト平均法も効いてくるので、長年勤めると結構な金額になるのだ。
従って、退職金と年金制度は要チェックである。
また、ベースアップ(ベア)の制度があるかどうかも重要である。
グローバル金融機関の場合、インドのようなインフレ国に拠点がある企業が多いので、インフレ対応としてのベースアップ制度がある。
日本はデフレ国だからベアは不要なのだが、ご相伴で毎年2~3%ベースサラリーを上げてくれる企業もある。
セコイ話かも知れないが、外資系金融の場合、ベースサラリーは幹部社員の場合、2000~3000万円程度なので、数%のベアが積もっていくと馬鹿に出来ない昇給が自動的に達成されるのだ。
最後に
外資系金融の転職におけるチェックポイントは、人的な要素のチェックが大きい。外資系の場合は経験者採用であるので、仕事においては能力や経験が発揮できないということは無いのだが、人間関係でハッピーだったり不幸になったりすることが多い。
これはちょっと調べればわかることが多いので、キッチリと調べるべきだ。
また、親会社が儲かっていないと、東京の社員がいくら頑張っても報われないことがある。最悪の場合、拠点が売却されて他の企業グループの傘下になってしまうと、被買収側にはリストラの嵐が吹き荒れる。
結局、転職において成功するか否かは、調査能力がカギとなるのだ。