総合商社のビジネスモデルを正確に把握し、就活の志望動機、自己PR、希望部署等を再考してみる

1. 総合商社のビジネスモデルは、人と人とを繋げることだろうか?

①過去の内定者の志望動機を見て

あちらこちらの登録制の就活メディアにおいて、総合商社の内定者の志望動機が開示されている。

これらを見ると、グローバル、途上国、人と人とを繋ぐ、といったキーワードにうんざりするぐらい遭遇する。

総合商社なので、過去の自分の海外・留学経験と結び付けてアピールするために、グローバルとか途上国というのは理解できなくもない。

しかし、自分のサークルとかゼミの副代表の経験を活かして、総合商社の人と人とを繋げる仕事に役立てたい、というのはいいのだろうか?

本当に総合商社の仕事は人と人とを「繋ぐ」ことなのだろうか?

②人と人とを繋げる仕事とは?

直接的に、「人と人を繋げる」ことそのものというビジネスは、結婚相談所である。

人と人とを繋げたいのであれば、「ツヴァイとか楽天オーネットとかパートナーエージェントに行けばどう?」、とか言われたらどう答えればいいだろう?

また、人と人そのものを直接繋げるのではなく、財やサービスを介して繋げるというのであれば、広く仲介ビジネスが該当する。

お金や有価証券を介して人と人とを繋げるのは金融業(仲介ビジネス)が該当する。

物を介して人と人とを繋げるのであれば、広くEC全般が該当し、楽天、メルカリ、ヤフオク、小売り、卸売りなどがそうであろう。

その意味では、総合商社のトレーディング業務、卸売り業務というのはこれに該当するだろう。

しかし、物やサービスを介して人と人とを繋げるのは、上記の通り、商社に限らず、金融や不動産の仲介ビジネスとか、多くの小売ビジネスにもあてはまるので、「何故その中で総合商社じゃないとダメなんですか?」と聞かれると返答に窮してしまう。

2. 総合商社の「正確な」ビジネスモデルについて考える

①総合商社のビジネスモデル~三井物産のホムペから~

前置きが長くなったが、総合商社の正しいビジネスモデルについては、三井物産がそのホムペで、ズバリ紹介してくれている。

「6つの事業分野。16の営業本部。

世界中の人を、情報を、アイデアを、技術を、国・地域をつなぎ、あらたなビジネスを創造します。

会社情報 | 三井物産の事業 – 三井物産株式会社

「6つの事業分野、16の営業本部」というのは、三井物産の話だが、その下の、「世界中の人を、情報を、アイデアを、技術を、国・地域をつなぎ、あらたなビジネスを創造します。」という箇所は他の総合商社にも該当する。

さすが三井物産である。わかりずらい総合商社の事業、ビジネスモデルを、端的に、しかもカッコ良く、表現してくれている。

総合商社が本命の学生は、「世界中の人を、・・・、あらたなビジネスを創造します。」のところを暗記するまで数百回、朗読すると良い。

②総合商社の事業、ビジネスモデルは「価値創造」である。

上記の、三井物産による、総合商社のビジネスモデルの意味を解説しよう。

これを見ていただくとおわかりだろうが、「人と人とを繋ぐ」というのはそういう要素もあるかも知れないが、総合商社の事業の本質ではない。

総合商社のビジネスモデルの本質は、「あらたなビジネスを創造します。」という部分である。一言で言うと「価値創造」である。

総合商社のビジネスモデルとは何かと聞かれたら、「価値創造」と答えよう。「人と人とを繋ぐ」より、断然カッコ良くないだろうか?

③価値創造をするための多様な手段が総合商社の特徴

価値創造というのが総合商社のビジネスモデルであるのだが、それだと、「金融だって、不動産だって、メーカーだって価値創造するじゃないですか?」というツッコミを受けることになる。

それに対する回答が、前段の、「世界中の人を、情報を、アイデアを、技術を、国・地域をつなぎ、」の個所なのである。

この箇所は、総合商社の経営資源であって、価値創造をするための手段なのである。

「世界中の人を」というのは世界中の社員や取引先、潜在顧客を意味する。

「情報」というのは総合商社が過去から蓄積してきた情報やスキルである。

「アイデア」というのは総合商社の社員が有する企画開発能力である。

「技術」というのは、科学技術だけでなく、リスク管理や財務、法務に関するノウハウを広く含む。

「国・地域」というのは、総合商社の拠点等である。

こういった総合商社が有する、ありとあらゆる経営資源を繋げることによって、ビジネスを創造、要するに価値創造を実現するのである。

このことから、繋げるのは「人と人」なのではなく、総合商社が有する、営業拠点、ノウハウ、取引先、ビジネススキル、資金力、信用といった個々の経営資源を「繋げる」ことなのである。

また、繋げる仕事というのは仲介手数料がメインのコモディティ業務であるが、総合商社の場合は、様々な経営資源を使って、単なる仲介ビジネスを越えて価値創造ができるからこそ、高い給料がもらえるのである。

四季報などの産業分類では、総合商社は「商業」のカテゴリーとして扱われることが多いだろうが、他の商業と違って価値創造ができるからこそ、多額の利益を実現し、高い給料がもらえるのである。

これは、同じ「商社」と名の付く、専門商社との比較からも明らかである。

専門商社の場合は、決まった商材の仲介・卸売りに特化しているので、総合商社のような価値創造ができない。だから、給与水準も大幅に低いのだ。

だから、総合商社がダメだと専門商社という発想にならないのだ。

ビジネスモデルが異なるのである。

④実際の事例で、価値創造について考えよう

それでは、更に、総合商社の価値創造とそれを実現するための経営資源(三井部産の定義の前段のところ)について、実例で考えて見よう。

例えば、三菱商事がコンビニのローソンを買収した。

何故、三菱商事はローソンを買収するのか、「人と人とを繋げる」からは説明ができない。それが経営的に正当化できるのは、三菱商事の事業目的は「価値創造」だからだ。

三菱商事が、ローソンを買収し経営することによって、価値創造を企図したのだ。

事実、三菱商事がローソンを買収した後、ローソンの利益水準は大幅に上昇し、株価も上昇した。価値創造は実現されたのである。

それでは、何故、三菱商事はローソンを買収することによって価値創造を実現できたのか?

それは、まさに、三井物産の定義である「世界中の人を、情報を、アイデアを、技術を、国・地域をつなぎ、」という経営資源を三菱商事が有しており、それらを有効活用することができたからだ。

具体的には、三菱商事は新浪さんという経営人材を送り込むことによって、その経営「アイデア」を活用し、三菱商事が有している流通に関する「技術」、「世界中」の拠点からの仕入れ、「情報」等をフル活用できたのである。

これが、野村證券、日本生命、東京海上といった金融機関による買収であったならば、このような価値創造は容易ではなかったろう。

何故なら、これら大手金融機関はお金や金融スキルはあるものの、新浪さんのようなコンビニ経営ができるような経営人材はいないだろうし、流通に関するノウハウはない。また、食料品等を安く仕入れることができる情報とかスキルとか海外拠点も無い。

従って、お金を出すだけの単なる投資に終わってしまう。

ここが、総合商社のビジネスの醍醐味なのだ。

ついでに、伊藤忠のファミマの買収も同様に想像して、トレーニングをすればいいだろう。

3. 正しいビジネスモデルを理解した上で、志望動機等を再考しよう

①志望動機について

実は、「世界中の人を、情報を、アイデアを、技術を、国・地域をつなぎ、」価値創造するという、総合商社のビジネスモデルを正しく理解すれば、それがそのまま志望動機になってしまう。

何故なら、「海外拠点網、情報、アイデア、技術、人材の組み合わせによって価値創造をする」というのは、総合商社固有のものであって、金融、通信、不動産、小売り、メーカー、いずれも出来ないからだ。

このため、この志望動機を言うと、面接でよく突っ込まれる「それなら金融行けば?」とか「メーカー行けば?」と言われても、「他じゃできません。」と答えてThat’s allなのである。

ついでにいうと、総合商社は日本にしか存在しないので、外資系で似たような企業も無い。

あまり好きではないが、就活マニュアルでは、「自分の経験を志望動機に絡めて述べよ」というのがあるが、価値創造だと尚更説明しやすい。

ゼミやサークルの副代表で人と人とを繋ぐ経験をしてきたが、総合商社ではそれを発展させて、総合商社の海外拠点、情報、アイデア、経営スキル等を繋げることによって、価値創造に貢献したいと思った、と言えば、多少はマシではないだろうか?

②希望部署について

総合商社の面接等で必ず聞かれる意地悪質問が、「どんな仕事をやりたいか?」である。「資源やりたい」と言ったら必ず、「じゃあ、資源に配属されなかったら辞めるの?」という意地悪質問がついてくる。

これ結構面倒くさくて、「いや、そこまで資源にはこだわりません。」と回答すると、「じゃあ、何でもいいのか」みたいになってスッキリしない。

しかし、総合商社特有のビジネスモデルの本質である「価値創造」に惹かれたのが志望動機であれば、配属先は何だっていいのである。

海外、トレーディング、コーポレートとあらゆる部門が組み合わさることによって、価値創造が出来れば会社としてはOKなのである。

だから、「価値創造」の実現に向けた仕事ができればいいわけだから、必ずしも特定の部署に執着する必要は無いのだ。「価値創造の実現に寄与したいので必ずしも特定の部署に対する執着はありません。

敢えて言うとしたら、〇〇に興味があります。」ということでいいのではないだろうか。

三菱商事に対して志望動機とか希望部署等の話になると、上記のローソンの話を自らすればいいのではないだろうか?

総合商社の魅力がたっぷりと詰まっているので、十分説得力を持って面接官に伝わるだろう。

(※但し、間違って他社でローソンの話をするべきではない。その会社特有の事例を探してみよう)

4. ES提出前にスペックを上げておくことが前提

①最も厳しい学歴フィルターが存在することを先ず認識しておく

日本の大企業の場合、本音と建前があるので、総合商社でも「学歴不問」という建前がある。しかし、採用実績校を見れば、それが本音ではないことは明らかである。

総合商社、特に五大商社の場合、最も厳しい部類の学歴フィルターが存在する。例えば、三菱商事の場合、19/3卒業生については130名の新卒採用を行った。(なお、130名にはいわゆる一般職が7名含まれている。)

https://www.mitsubishicorp.com/jp/ja/about/resource/data.html

そのうち、東大、京大、一橋、慶應、早稲田の5校からの採用者数が78名であり、これだけで新卒採用者数の6割を占める。これに、旧帝、神戸大学、筑波、東京外大、東工大が17名なので、ここまでで約3/4が埋まってしまう。

MARCH、関関同立は学歴フィルター自体はクリアするものの、MARCH全体で6名、関関同立全体で3名しか採用されていない(しかも一般職が含まれている可能性もある。)。従って、MARCH、関関同立がギリギリ内定を取れる可能性のあるラインだが、相当努力をしないと総合商社に就職するのは容易ではない。

2019/3卒の場合、日東駒専、龍甲産近から総合商社への就職実績は、日大から丸紅に行った事例(1名)あるだけで、このラインになるとまず不可能と考えられる。従って、本気で総合商社を考える場合には、この点を十分認識した上で対応策を採る必要がある。

<MARCH、関関同立から総合商社の内定を取る方法について考えてみた>

https://career21.jp/2018-11-28-140154/

②旧帝大以上の有力国立、早慶の場合も、十分なスペック上げが必要に

学歴フィルターを十分クリアできる、有力大学の就活生の場合も総合商社から内定を取るのは簡単ではない。総合商社は有力大学の学生の間で普遍的に人気が高いため、競争はかなり厳しいからである。

従って、本気で内定を取ろうと思えば、十分なスペック上げをしておく等、十分な準備が求められる。具体的には、体育会、海外経験(留学/帰国子女)、成績(証券アナリスト、簿記、GPA他)、起業経験等である。体育会については、近年はそれだけでは内定が難しくなったという話もあるが、ある程度は有効であろう。

そういったスペックを上げた上で、周到なOB訪問、企業研究、面接・GD対策をしておかないと、コロナによる採用減の可能性があるため、特に22卒以降は厳しくなるのではないだろうか?

最後に

ビジネスモデルというのは企業分析をしっかりと行えば理解できるはずである。

しかし、企業分析が苦手な学生が多いため、ビジネスモデルが正確に理解されないまま、ESを書いたり、OB/OG訪問に特攻して、自爆してしまうケースも多い。

しっかりとしたビジネスモデル、企業分析を行うことによって、より深みのある志望動機等を創造しやすい。

本命の企業についてはなるべく早い内から企業分析をやっておきたい。(なお、企業分析については、こちらの過去記事をご参照下さい。

https://career21.jp/2019-03-29-134313

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