1. 東大文学部の就職状況
早稲田、慶應、その他国立大学においても、一般的に、就職において文学部は法学部や経済学部よりも見劣りすると考えられている。それでは、最難関の東大文学部の就職状況から、その就職力について検討したい。
まず、東大文学部の卒業生の進路については、大学側がホムペで2019/3卒業生の分まで開示してくれている。
http://www.l.u-tokyo.ac.jp/assets/files/student/HP_H31.pdf
①そもそも、民間企業に就職する卒業生の数が非常に少ない
この東大の資料によると、まず、そもそも卒業生の数が思っていた以上に少ないことに驚かされる。317名しかいない。さらに、大学院への進学者が75人と1/4弱もあり、その他という進学準備・資格試験勉強等の学生が33人と約1割を占める。
従って、就職する文学部卒の学生は、わずか209名である。また、官公庁に就職する卒業生が16人いるので、民間企業就職者はさらに減って、たったの193人となる。わずか卒業生の6割強である。
これを見ただけで、東大文学部の民間企業就職希望者数の稀少価値が高く、就職が悪い訳がない感じが直感的にした。
②具体的な就職先について
まず、文学部だけあって、出版、新聞、テレビ、広告とマスコミ系への就職者数が24人いて、民間企業就職者の約12%のシェアを占める。
就職先企業は、朝日新聞、読売新聞、幻冬舎メディアコンサルティング、講談社、TBS、NHK、日本テレビ、テレビ朝日、テレビ東京、電通、と最難関の人気マスコミ大手が並ぶ。
それから、流行のコンサルにもそれなりに就職していて、PwCコンサルティング、アクセンチュア、アビームコンサルティング、クニエ、デロイトトーマツコンサルティング、三菱UFJリサーチ&コンサルティング、みずほ総合研究所、博報堂コンサルティングへの就職者を輩出している。もっとも、マッキンゼー、BCG等の、コンサルにおける最高峰であるMBBへの就職者は見当たらない。
少々意外なのは、金融機関も人気のようで、合計26名(民間企業就職者に占めるシェア約14%)が就職している。その中でも注目されるのが、モルガン・スタンレー証券という金融機関で最高峰の外銀に卒業生を輩出していることである。前年度は、JPモルガン証券とゴールドマン・サックス証券への就職者もいたので、外銀志望者も一定数はいるのではないだろうか。
もちろん、東京海上、日本生命、野村證券、メガバンクといった国内系大手金融機関にも就職している。また、日本銀行、政策投資銀行という入社難易度の高い政府系金融機関への就職者もいるので、この点はさすが東大である。
外銀・外コンに並ぶ、人気の総合商社についても、三菱商事、三井物産、住友商事、伊藤忠、双日に就職しており、ここでも東大ブランドを発揮できている。
他の業種を見ても、花王、サントリー、トヨタ、富士フィルムといった製造業や、NTTグループ、JR東海、JR東日本といったインフラ系、そして、フロムスクラッチやワンキャリアといったベンチャー系まで幅広く卒業生を送り込んでいる。
東大法学部や経済学部と比べて、若干異なるのは、教育系に就職している卒業生が12名と若干多いことぐらいであろうか。
2. 東大文学部の就職力について
東大文学部の具体的な就職先企業を見ると、東大文学部の就職力は極めて高く、法学部や経済学部と遜色ないことがうかがえる。キー局、電通、外銀、政府系金融、総合商社、コンサルと、あらゆるジャンルにおいて最難関・最人気企業に卒業生を輩出しているのである。
法学部や経済学部と比べて若干弱いところがあるとすれば、マッキンゼー、BCG等のMBBへの就職者が見当たらないことぐらいであろうか?
もっとも、民間企業への就職者数が193人と極めて少なく、母集団が小さいのでこれは志望者が少ないだけかも知れないので、何とも言えない。
就職先の中には、教育系とか中小・ベンチャー企業?も散見されるが、それは好きで行っているだけで、他を落とされたからということは無いはずである。
このように、東大文学部の就職力は、法学部や経済学部に見劣りしない、極めてハイレベルな水準にあると考えられる。
相対的に見ると、一橋大学の法学部よりも良好と言えるかも知れない。一橋大学法学部は、外銀とMBBがゼロなので、見劣りしてしまう。
<ご参考:一橋大学法学部の就職状況>
https://career21.jp/2018-12-18-070107
感想
思っていた以上に東大文学部の就職は良かった。その要因としては、法学部・経済学部と比べて特に入試偏差値における差異が大きくないことが認識されていることに加え、民間企業就職者数が極めて少ないという稀少性にあるのではないだろうか?
特に、外銀、総合商社を押さえているところが見栄えが良い。また、政府系金融機関やインフラ系など、東大特有の強さも発揮できている。
もっとも、東大経済学部を希望だが、自信がないから文学部を受験するというケースはほとんどないのではなかろうか?
そういうわけで、東大文学部は就職においてお買い得ということが無いのは受験生の視点からすると残念なところである。