1. 4MEEEの運営母体の評価はわずか3年で10分の1に?
インターネットベンチャー系の上場企業インタースペース社は、Buyma運営のエニグモ社からその子会社であり4MEEEを運営しているロケットベンチャーの株式100%を2018年1月に取得した。
その取得価格は約6000万円である。
インタースペース、エニグモ子会社で女性向けメディア運営のロケットベンチャーを買収|M&A ニュース速報 | M&A タイムス
このニュース自体は別に、単なるメディア運営企業の買収なのだが、興味深い点は、その買収のわずか3年前の2015年2月に、譲渡人であるエニグモ社はロケットベンチャー社を約6億円で買収していたのだ。
言い換えると、エニグモ社が2015年2月に約6億円で買収したロケットベンチャー社の株式を、わずか3年後の2018年1月に、買収価格の約1/10である6000万円程で、インタースペース社に譲渡したということである。
ロケットベンチャー社の企業価値はわずか3年で1/10になってしまったということだ。
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2. 元来、非上場のネット企業の株価の算定は難しいのだが
元来、非上場のネット企業の株価評価は難しく、そもそも赤字であるので、EBITDAとかPERのマルチプルは使えないし、売上自体が読みにくいのでPSRとかもあまりあてにならない。
IBDの若手が大好きなValuationの教科書的なメソッドが使えない世界である。
従って、このような、ネット企業を買収してみたものの、その後経営がうまく行かず、大幅な安値で損切りで譲渡してしまるという話は別に珍しくも無い。
ここで言えることは、ベンチャー企業の株価評価は流動的で難しいということだ。
3. 売り手の起業家からすると、売り方の巧拙でEXITの金額は大きく違ってくる
ここで強調したいのは、エニグマのM&Aがどうこうではなく、売り手である起業家の行動だ。
要するに、売るタイミングや売り主によって、ベンチャー企業の株価評価は大きく異なることが起こり得る。
売り手である起業家からすると、なるべく高値で売却したい。
そうであれば、どうすれば高く売れるのかについてポイントを把握しておく必要がある。
これには定説というか、確固たる理論があるわけではないが、以下の点を把握しておくべきであろう。
(1)売却するタイミング
⇒売却時のマクロ経済環境、株式市況等
⇒当該ベンチャー企業の業種・テーマの人気度合い
(2)買収候補企業の懐具合、相性等
⇒買収候補企業の規模、収益性、当時の勢い
⇒買収候補企業の業務内容、経営戦略との相性
⇒買収候補企業の会計制度(のれんの処理の仕方)
(3)M&Aの仲介業者の能力
⇒M&A仲介業者の買収候補企業リサーチ能力
⇒M&A仲介業者のアドバイザリー能力、交渉力等
上記について、エニグマ社への譲渡について考えてみると、2015年はアベノミクス相場で景気・株式市況共に良好で、また、当時はキュレーション・メディアというキーワードがもてはやされていた時期であり、非常に良いタイミングであったと言える。
また、買収企業であるエニグモ社も、2015/1月期は単体で10億円以上の利益を計上し(2016/1期は減益となったが)、ベンチャー企業のなかでは高収益を誇る企業であった。
他方、インタースペース社が譲り受けた2018年1月は、日経平均株価が高値圏で推移している環境下、キュレーション・メディアのブームは2016年のWELQ事件もあり、完全に下降気味となっている。
このような外部環境の差は大きい。
最後に
株式の評価は、大型株であっても、その時々の人気度合いとかマクロ市況に影響されるのであるが、非公開のベンチャー企業の株価評価となるとなおさら、ブーム、テーマに大きく左右される。
従って、売却するタイミングが非常に重要になってくる。
このため、M&AによるEXITを見据えた起業を行う場合には、その企業の対象となるテーマとその持続性や、潜在的な買い手候補企業の状況を踏まえておくことが重要になってくる。
そうなってくると、経営能力だけではなくファイナンス的なセンスもベンチャー起業家に必要とされるということだろうか。