1. 起業した会社を早期に売却(EXIT)することの魅力とは
M&Aを選択する起業家も出てきた
1999年の東証マザーズ創設や第一次インターネットバブルを契機に、日本でも「起業」というキャリアが徐々に増えていき、保守的なトップ学生の中にも将来は「起業」したいという者もちらほらと見られるようになった。
ところが、億単位の資金調達に成功した若き起業家は、何故か皆、IPOが目標という。
起業したからにはIPOしかゴールが無いと思っているのであろうか。
しかし、日本でもようやく、IPOではなくM&Aによる企業売却というEXITの方法が少しずつ広がり始めた。中には、キュレーションサイト・ブームの時には、当初より短期の売却目的で起業を始める者も見られた。
グローバルな運用難に伴うカネあまりに伴う、ベンチャー市場への資金流入や、成長戦略の一環として小規模な企業買収を行いたい上場ベンチャー企業の増加等により、数億円規模であれば、以前より売却しやすいインフラができてきた模様だ。
②IPOではなく、早めのタイミングでM&Aを行うメリット
小規模なベンチャー企業のM&A関連サービスを実施しているidealink社がM&A BANKという自社メディアを所有しており、ここでも、M&Aによるメリットが紹介されている。
M&A BANK、これまでのゲストから見えてきたもの|Vol.118 | M&A BANK
これによると、何と言っても「時間」の節約というメリットが大きい。
IPOとなるとそのための費用や労力がかかるが、余分に数年間かかってしまう。
スピード感が命であるベンチャー企業において、早いタイミングでまとまった現金を入手できるという意義は大きい。
起業する際には、〇年後にはEXITするという計画を立てておかないと、ビジネスはそこそこでもリビング・デッド化してしまうリスクがある。
それから、M&AによるEXITに成功した経営者は、能力アップが図れるようで、売却する前よりも、大きなビジネスを展開できることが多いようだ。
これは、M&Aという真剣勝負において、企業を磨き上げる能力が身に付くからだろうか。
また、EXITに成功すると、その起業家はEXIT組という次のステージに進めるようで、ネットワークが強化され、次により大きい事業が手掛けやすい環境におかれるのも魅力のようだ。
2. 売却目的の起業という途を選択できない東大生達
このように、魅力にあふれる売却目的の起業という途であるが、東大や慶応を始めとするトップ学生はまだまだ知らないからか、或いは、知っていても出来ない・やりたくない理由があるからなのか定かではないが、いまだに、外銀・外コン・総合商社という、堅いキャリアを志向しているようである。
売却目的の起業に魅力は感じながらも、実際、選択したくてもできない理由があるとすれば以下のようなものではないだろうか?
①そもそも、事業のアイデアが思いつかないし、エンジニアが見つからない
これは、学生以上に、大きな組織でサラリーマンを長年やっていると、ほとんどの者が直面する壁である。
起業というと、何故か、ネット系企業の起業を想像するものが多いようで、特に文系でプログラミングが全くわからないという場合には、そもそも、エンジニアを巻き込まないと行けないので、この時点で終わってしまう。
②別に、エンジニアがいなくても起業はできる
もちろん、自分自身がプログラミングができる、或いは、一緒に創業してくれるエンジニアが見つかるのであれば、その方が選択肢は拡がるかも知れないが、別に、エンジニアがいなくても起業はできる。
既存のビジネスを改良して参入すれば良いのだ。
例えば、ラーメンが好きであれば、カウンターだけのラーメン屋から始めることは、難しくない。
(もちろん、成功するのは簡単では無いだろうが…)
また、東大や慶応の学生であれば、誰でも塾を始めることはできるであろう。
グローバル企業を目指すような学生であれば、高度な英会話を小学生に教えるとか、医学部志望の富裕層のご子息のみを対象とした「物理」や「化学」に特化した塾という切り口もある。
もっとも、飲食店は、固定費が掛かる上、材料管理、料理の腕前、広告宣伝、バイトの採用と幅広いスキルが要求されるし、利益率が高いビジネスではないからやりたくないのかも知れない。
また、塾の場合は労働集約産業的で、物理的に教えることができる生徒の数に上限があるし、フランチャイズ化するのは時間がかかりすぎるという考えもあろうだろう。
そういう場合には、以下のビジネスを行えばいい。
③ネットだけで完結できるビジネス
店舗も在庫も借入も従業員も無しで、ビジネスを始めたいという場合には、ネットだけで完結できるビジネスを行えばいい。
典型的なものはアフィリエイトブログの運営である。
もちろん、アフィリエイトは競争が厳しく、そこで勝ち抜くことは難しいのであるが、そうであるならば、自分の得意なジャンルでブログを作成し、それを基にビジネスを拡げて行けばよい。
この点については、イケダハヤト氏の記事が詳しい。
ブログで年間1億円稼いだので、感想を述べます。 : まだ東京で消耗してるの?
また、ブログの場合、アフィリエイト、Googleアドセンス、Note、オンラインサロンと収益源はいくつもあるが、ブログの内容によってはブログ毎売却するという方法もある。
PVが月間数十万レベルであれば、数千万円以上で売却することも可能な場合がある。
なお、ブログ等のメディアビジネスの場合には、いきなり会社を辞めなくとも会社に内緒、或いは兼業でスタートすることが可能である。
ある程度成功の目途が立った段階で専業になればいいという柔軟性がある。
従って、ラーメンその他グルメ系に自信があるトップ校出身者であれば、自らがラーメン屋を始めなくてもブログの情報発信から初めて見るという方法もあるし、いきなり会社を辞めて塾を始めるのはリスクが高く抵抗があるのであれば、受験に関する個性的な情報をブログで発信して、その感触を見ながら次の展開を考えればよい。
3. 起業を目指した就職活動
いきなり起業をする自信もネタも無いし、せっかく一流大学に入学できたのだから、一度は一流企業に就職して、何らかのスキルを付けておきたいと考える学生がいても不思議ではない。
ただ、そういった場合、就職偏差値が高い外銀・外コン・総合商社が最適解とは限らないのが問題だ。
特に、外銀とか総合商社に行ってしまうと、起業は厳しい。
また、起業⇒ネット系ベンチャー大手、というわけでもないのが難しい点である。
例えば、4~5年位前に、多くの東大生等がDeNAやグリーを目指したが、あまり成功しているとは思えない。
上場している大手ベンチャー企業の「新規事業」「事業開発」を複数人で担うのと全く自分一人だけでビジネスを始めるのとでは求められるスキルが異なるからである。
そうであれば、塾でも飲食店でも、出来上がった大手ではなく、小規模の個人経営で急成長しているような組織に身を置いた方が参考になるのではないだろうか。
いずれにせよ、外銀・外コン以上に、まとまった金額(例えば1億円以上)で、EXITに成功できた場合の魅力は大きいので、こちらの途を選択するトップ学生がもう少し増えても良いのではないだろうか。