「商社だと3年目で年収1000万円近くになる!」、「外銀MDで年収1億円だ!」、と世の中では、わかりやすいということもあり、「年収」を基準に考えることが多い。
しかし、人生は長く、一定期間のフローに過ぎない年収だけに着目するのではなく、生涯賃金という極めて長期的なフローの累計額という切り口からも、キャリアを考察することも必要ではないだろうか?人生100年時代と言われる中、70歳まで働くことが当たり前になるかもしれない。
そこで、今回は生涯賃金でも「10億円」というキリが良く、かつ、ハードルが高いプランについて考察したい。
1. 生涯賃金10億円の意義
①生涯賃金10億円の定量的な意義
年収1000万円というのが、成功しているか否かの最初の判断基準に使われることが多いが、年収1000万だと、20歳から70歳の50年間稼ぎ続けたとしても、目標の半分の5億円にしかならない。
それでは、サラリーマンでも確定申告が必須となる、年収2000万円ではどうか?
これだと、例えば、20歳から70歳までの50年間稼ぎ続けることができれば、2000万円×50年=10億円と、達成可能だ。
しかし、この想定は当然無理がある。いきなり20歳で2000万を稼ぎ、70歳になるまでそれを継続できるというのは非現実的だからだ。
言い換えると、年収2000万円レベルであっても、生涯賃金が10億円というのは厳しいということだ。
それでは、年収3000万円ではどうだろうか?
30歳から60歳まで、30年間稼ぎ続けることができ、その前後10年間で1億円を稼ぐことができれば10億円だ。
これだと、何とかなるかも知れない。
反対に、太く短くプランはどうか?
例えば、どのタイミングでも構わないが、年収1億円×10年間で達成可能だ。
しかし、これはこれで、かえって非現実的な気がしないだろうか?
何と言っても、年収1億円というのがハードルが高く、一時的に稼げてもそれを継続するのは大変だからだ。
年収5000万円×20年間というのも厳しくないだろうか?
結局、3000万円を30年間というのが一番現実的なところではないだろうか?
いずれにせよ、数字の遊びをしたが、生涯賃金10億円というのは結構ハードルが高いことがわかる。一時的に高収入を狙うのと、コツコツ長期間安定的に稼ぎ続けるのにはトレードオフがあると考えられ、かなりの高水準の年収を長期間稼ぎ続けるという2つを充足するのは厳しいのだ。
②生涯賃金10億円の定性的な意義
上記①では、生涯賃金10億円を達成することの難しさについて、数字の面で分析した。
しかし、私が強調したいのはこちらの定性的な意味である。
生涯賃金10億円を達成するということは、定性的に言い換えると、長い間稼ぎ続けることができる、年を取っても(60歳を過ぎても)ビジネス界の第一線に居続けることができるということだ。
これは、お金の問題というより、充実した生き方という切り口で見ると大変重要ではないだろうか?
ある程度年を取って来ると、稼いだお金で何を使うかというよりも、自分の存在意義、社会的なポジションが気になるところである。
特に男性は、肩書、タイトル、名刺に拘る生き物であるので、お金に困らなかったとしても、職業やタイトル、見た目の良い名刺を持ち続けたいものなのだ。
だから、企業売却で10億円超を一発で達成した起業家の多くは、ゴルフ三昧の退屈な日々を選択するのではなく、その資金を用いて再び起業や投資をして生きていくことを選択するのだ。
そういうわけで、別に10億円が未達に終わっても構わないが、60歳を過ぎても1000万とか、2000万とかを稼ぐことができるキャリアプランを考えたいのだ。
2. 東大や慶応の学生こそ、キャリアプランに活用すべき理由
東大と慶応の学生は、就活強者である。
難易度・人気が最高の、外銀・外コン・総合商社で非常に競争力を有している。
それは、学歴に加え、情報力と要領の良さを兼ね備えているからと言えるだろう。
特に、外銀は東大と慶応が2強であり、一橋や早稲田の存在感は薄い。
しかし、これは偏差値至上型お受験教育に洗脳され過ぎているという課題もある。
単に難しい、人気があるという職業・企業が最良の選択とは限らない。
それは、現時点において、人気・難関というだけのことであり、長期的視点においては、最適解とは限らないからだ。
従って、生涯賃金という視点を持つことによって、他に最適解が見つかる可能性があるのだ。
以下、生涯賃金10億円という切り口から、各種職業・企業について考察してみよう。
3. 生涯賃金10億円が達成可能なキャリアプランについて
①国内系企業について
生涯賃金の推計は難しい。何故なら、10年単位で企業の給与水準は変動するからだ。
典型的なのが、メガバンク(当時は都市銀行)で、バブル期は部店長だと年収2400-2500万円位あったが、今では2000万円に達しない。2割以上の減収である。
また、電通とかキー局も40歳だと、2000万円以上あった時代もあったが、今では1割程度は減っているだろう。テレビからネットという流れを考えると、将来もこのトレンドは大きく変わらないのではないだろうか。
反対に、増えたのが総合商社で、20~30年前だと40歳の管理職だとせいぜい1500~1600万円だったが、今だと2000万円近くあるだろう。
このため、人気も難易度もトップに踊り出たのだ。
そういうことを考えると、最も長期的に安定しているのが、東京海上日動火災だ。
大昔から、生涯賃金6億円で日本でトップと言われてきた。
イメージとしては、最初の10年間が平均1000万円で1億円、次の10年間が平均1500万円で1.5憶円、最後の18年間が平均1800万円で3.24億円、退職金が3000万円で丁度6億円だ。さらにこれとは別に、企業年金が付く。
このように考えると、東京海上火災も悪くない気がする。入社難易度を考えると、お得かも知れない。もっとも、長期的には給与水準は減っていくのと、一生リテールビジネスというのは辛いものがあるが…。
今の給与水準を基準に考えると、トップは三菱商事であろう。
最初の10年間が平均1200万円で1億円、つぎの10年間が平均1800万円で1.8億円、最後の18年間が平均2000万円で3.6億円、さらに退職金も確定拠出年金もあるので、7憶円近いかも知れない。
東京海上より、1割位高いイメージである。
このように考えると、日本のトップ企業は生涯賃金10億円には及ばないものの結構いい線行くことがわかる。
やはり何と言っても、終身雇用の強みである。長期安定性だと他のどんな職業も敵わない。
以上からすると、総合商社人気というのは、目の付け所がいいかも知れない。
モルガン・スタンレーと迷って、三菱商事を選択する学生が多いというのは、このあたりの動物的感に長けているのかも知れない。
②外コンについて
結論から先にいうと、一番割に合わないのがこれである。
大して年収を稼げない割には、長期的に稼ぎ続けることが難しい職種である。
例えば、外コンでも最高峰のMBB、そのうちBCGで試算してみよう。
30歳までの8年間のアソシエイトについては、1000万円×8年間で0.8億。
30~35歳のプロジェクト・リーダーで1800万円×5年間で0.9億。
35~40歳のプリンシパルで、2500万円×5年間で1.25億。
40歳でパートナーになって、5000万円を14年間続けて、やっと10億。
というか、このプラン無理があるでしょう。
そもそもパートナーになれるのは数パーセントの世界なのに…
これが、アクセンチュアとかデロイトとかPwCといった総合系だと明らかに無理。
パートナーで2500~3000万円位なので。(もっとも、近年のDXブームによって、総合コンサルのパートナーで7000~8000万円位の年収の人も出てきているようだ。そのレベルまで行くと、可能性はあるだろう。)
もちろん、外コン志望者は転職を前提にしている人が多いのだけど、具体的にどうするのか?外コンから、外銀或いは国内系証券の専門職というのは20代のポテンシャル採用じゃないと難しい。
また、総合商社に行けるのも20代の内である。
他の国内系事業会社や、外資系事業会社だと、良くても国内系金融機関大手位しかもらえないし、外資系だと60歳まで働ける可能性は大いに下がる。
じゃあ、起業・独立ということだけど、それで確実に成功できる自信が無いから一旦外コンにしたのでは?
ちなみに、ポストコンサルのキャリアの実態についてはこちらの番組が詳しい。
https://www.youtube.com/watch?v=sa-qJVaDRt0
いずれにせよ、外コンを続けるにせよ、他の事業会社に転職するにせよ、起業・独立するにせよ、生涯賃金10億円にはなかなかつながらない。
リスクとリターンが見合っていないという見方もできる。
それに、足元、外コンは陣容拡大し過ぎである。マッキンゼーやBCGが新卒を40~50人、アクセンチュアが400~500人、もちろん中途採用の門戸も相当拡げている。このように供給が増えると、人材市場の需給が悪化し、将来的な年俸・価値の低下は必至である。
こういったことを考え合わせると、外銀・総合商社はアリでも、むやみに流行を追って外コンを目指すのは賢明ではないと思われるが、いかがだろうか?
③外銀について
外銀では、35歳でMDになれれば、最低でも5000万円は達成できる。
うまく行けば、1億越えも可能である。
ということは、10年間MDであり続けることができれば、生涯賃金10億円は可能である。
もっとも、リーマンショック前は、VPでも1億円越えはあったし、MDだと数億円以上という世界であったので、そのスケール感は半減している。
しかし、それでも、MDまで昇格できれば生涯賃金10億円はほぼ達成できそうである。MDまで辿り着ける確率は厳しいが、MBBでパートナーになるよりは可能性はあるだろう。
その意味で、外銀を目指すというのは十分な理由があるのだ。
なお、外銀ではなく、運用会社(バイサイド)でも生涯賃金10億円は十分に狙うことはできる。ポイントは、国内系企業程ではないけど、長く働くことが可能なこと。
40~55歳までの間、3000~5000万円をもらい続けると、退職金とか確定拠出年金もあるので、結構いい線行くのである。(運用会社(バイサイド)の年収等については、こちらの過去記事をご参照下さい。)
<運用会社の種類、年収等について>
https://career21.jp/2019-01-09-072810/
④弁護士について
昔の最難関、最高のステイタスを誇った弁護士である。
しかし、司法制度改革による供給の大幅増によって、一気に人気を失ってしまった。
特に、街弁と言われる、小規模な個人経営の弁護士の年収水準は厳しく、地方都市でも千数百万円稼げればいい方という世界になっているので、今更参入したところで、生涯賃金10億円とは無縁の世界である。
他方、四大事務所と言われる、いわゆる渉外弁護士事務所の世界だと事情が大きく異なる。
確かに、弁護士数の急増とリーマンショック以降のM&Aや証券案件のフィー減少により、かつてよりは大幅に下がっているが、昔が良すぎただけの話である。この点は外銀と良く似ている。
当時は、渉外弁護士の生涯賃金は20億円!と言われていたのだ。
四大事務所の場合だと、今でも40過ぎでパートナーに昇格すれば、少なくとも4000~5000万位の年収は十分に期待できる。
それに外銀のように定年45歳の世界では無いので、20年近く働くことは十分可能であり、そうであれば余裕で生涯賃金10億円を突破だ。
それに、60歳を過ぎても弁護士という肩書は消えないので、それは嬉しい話だ。
問題は、これも外銀と一緒で、パートナーになれるかどうかが簡単ではないということと、とにかくなるまでに時間と手間がかかりすぎるということだ。
⑤医師について
弁護士の人気が凋落する一方、その人気や難易度の上昇はまだまだ継続中の医師である。
ただ、勤務医については、明らかに生涯賃金10億円は無理である。
お金も稼ごうと思えば、開業医になる他ない。
開業医、年収1億円と借金地獄の分かれ道 | 金持ちドクターと貧乏ドクター | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準
開業医の平均年収はピンキリなのだが、こちらの厚生労働省の統計によると、2500万円と出ている。とはいえ、こういった統計は低めに出さないと、診療報酬とかを下げられるので、実際は、そこそこの開業医であれば、3000万円位はあるのではないだろうか。
そうすると、40歳で開業すると、70歳近くまで働けると10億達成である。
もっとも、40歳で開業できるとは限らないし、70歳まで開業できるかもわからない。
また、開業するには初期投資が結構かかる。
その意味で、楽ではないし、リスクもあるのだが、やはり、開業医というのは長く高水準の収入を稼ぎ続けることができるので、いい職業と言えそうだ。
⑥起業、会社経営者
昔から、日本のお金持ちの典型は中小企業の経営者である。
大企業でも雇われの経営者は大した収入はならない。
しかし、会社経営者というのは本当にピンキリなので、一般化することは難しい。
起業をして、サクッと会社を売却という途も出来てきたようだが、それでも、10億円超の売却というのはハードルが高い。
IPOを目指してきたが、結果的に途中でM&Aをすることになったというパターンが多いのではないだろうか。
他方、後述するが、数億円レベルでの企業売却であれば実現可能性がグッと増すので、こちらを念頭に置いたキャリアプランというのも今後はアリだろう。
4. 今後のキャリアプランの可能性
上で見てきたのは、現状での年収水準や競合状況に基づいたキャリアプランと生涯賃金の皮算用である。
最近の世の中の流れは速く、AI等に代表されるITの急激な進化によって、今では考えもつかない儲かる職業が数十年後には登場しているかも知れない。
そこで、新しいキャリアプランの可能性について少し考えてみたい。
①副業で稼ぐ
ここでいう副業とは、クラウドワークスとかランサーズでお小遣い程度に数万円を稼ごうという世界ではない。
月50万円~100万円レベルの、高い次元の副収入だ。
働き方改革によって、日本のトップ企業の副業が緩和されると、本格的に副業で稼げるサラリーマンが出てきても不思議ではない。
特に、プログラミングができるエリートサラリーマンであれば、受託開発を副業として月100万円以上稼ぐことは可能ではないだろうか?
また、後述するが、個人ブログを使ったビジネスでは、広告、コンテンツ課金、ECと多様な切り口があり、得意な分野があると、十分に稼ぐチャンスはあるだろう。
大手企業のサラリーマンはブログやSNSなどが必要以上に制限されているのではないかと思われるが、副業規制の絡みで、こちらも緩和されるといろいろとチャンスは拡がるだろう。
上述した通り、日本の大企業は生涯賃金で見ると結構いい線行っているので、副業でまとまった金額を稼ぐことができれば、更に魅力にあふれる暮らしが可能となるだろう。
②ブログビジネス等の個人メディアを運営して稼ぐ
既に、年収1億円クラスの個人ブロガーは存在している。
アフィリエイトやオンラインサロンだけでなく、自己のビジネス(コンサルティング)やプログラミング技術の受注に繋げたり、ブログ(メディア)毎売却したり、いろいろなキャッシュポイントがある。
今後、5G時代を迎えるにあたって、YouTube等の動画を絡めてメディアを開発できるようになれば、ますます個人メディアとしての可能性は拡がるのではないだろうか?
昔は、ネット起業家など、存在しなかったが今では一気に広がっている。
将来は、個人ブロガー等の個人メディアを運営することによって成功するというパターンが出来ているかも知れない。
(ブログビジネスの可能性については、こちらの過去記事をご参照下さい。)
https://career21.jp/2019-01-22-093859/
最後に
生涯賃金という視点は、キャリアプランのためには不可欠な視点である。
お金の問題だけでなく、年を取っても充実した人生を営むためには何が必要かということを認識できるからだ。
その点、お金には不安が無くても、定年が避けられない外銀とか大手のサラリーマンは、将来に向けて副業を開拓していく必要が生じるかも知れない。
また、どこかのタイミングで向いていると思えば、経営者とか個人メディア運営の途に切り替えた方がいいのかも知れない。経営者や自営業には定年が無いからである。
また、お金があればいいというのであれば、今でも外銀とかヘッジファンドとか、やはり外資金融は捨てがたいということが確認できる。
他方、外コンというのは果たしてそれほど魅力があるのかは、疑問点もある。
このように、単なる目先の人気職業を追うだけでなく、長い先を踏まえたキャリアプランを見つめてみると、最初の就職先の選択も変わってくるかも知れない。