1. 運用会社(バイサイド)とは?
運用会社は証券会社と比べると、知名度が低い。その理由としては、単純に就業者人口が証券会社や銀行と比べて少ないということもあるし、証券会社、銀行、保険会社の子会社であるため目立ちにくいということもある。また、非上場の会社も少なくないため、公開情報が乏しいということもあろう。
しかし、リーマンショック後に証券会社の収益性が低下し、給与水準等が大幅に下落したのに反して、運用会社の待遇はグローバルで特に下落していない。
グローバルで優良な運用会社の数は多く、給油水準もそれなりに高い上、証券会社と比して長く働ける可能性が高いのが魅力である。
そこで、運用会社の年収や将来性について紹介したい。
年収や将来性に関しては、運用会社の態様によって大きく異なるので、以下の3つのカテゴリーに分けて検討する。
①ヘッジファンド(外資系、国内系問わず)
②外資系運用会社(ヘッジファンド以外の外資系の運用会社)
③国内系運用会社(ヘッジファンド以外の国内系の運用会社)
2. ヘッジファンドの年収について
ヘッジファンドとは、様々な運用手法を駆使して、絶対収益を追求することを目的とするファンドをいう。絶対収益、要するに、儲かった金額に一定の割合を掛けたものが成功報酬としてヘッジファンドに支払われるので、運用が成功すれば青天井で儲かるというところが特徴である。
したがって、今でも、成功しているヘッジファンドのポートフォリオ・マネージャーは1億円を遥かに超える報酬を手にすることが可能である。
他方、運用が上手く行かないと、厳しいところだと、1年でクビにされてしまうリスクもある、ハイリスク・ハイリターン型の職種である。
とにかく、お金が欲しいという人には打ってつけの職業である。
ヘッジファンドの年収や転職について、興味がある人はこちらの過去記事をご参照下さい。
<ヘッジファンドの世界と年収>
https://career21.jp/2018-11-08-085053/
<ONE CAREER:知られざるヘッジファンドの世界>
https://www.onecareer.jp/articles/2161
3. 外資系運用会社の年収について
①年収イメージ
外資系運用会社の場合も、外資系証券会社と同様、フロント部門(運用、営業)とバックオフィス(人事、経理、コンプライアンス、オペレーション等)で異なる。
もっとも、外資系証券会社程には大きく変わらない。
フロント部門の場合、30歳前後のVPの場合、1500~2500万円程度が1つの目安となる。基本給であるベース・サラリーと年1回のボーナスの2本立てであるのも外資系証券会社と同様である。
若手VPの場合だと、ベースが1000~1500万円、ボーナスが数百万~1000万円というイメージか?
もちろん、その人の実績、会社のグローバルでの収益性等によって大きく異なる。
そして、30代後半以降にワンランク上のSVPとかDirectorになると、ベースが1500~2000万、ボーナスが500万~数千万円というイメージである。
もっとも、安定的に年収で5000万円を稼ぎ続けるのは容易ではなく、3000万円程度を想定するのが無難だろうか。
40歳以降、最高位のMD(本部長)レベルまで行くと、ベースとボーナスを合わせて5000万円以上が期待できる。
もっとも、1億円というのはかなり厳しいと考えた方がよい。
②外資系証券会社との違い
外資系証券会社との大きな違いは、寿命が長いということである。外資系証券会社の場合には45歳を超えると仕事を続けるのはかなり難しい反面、外資系運用会社の場合には、50歳以上の人は普通に存在し、55歳位までであれば仕事を続けることはできそうである。
他方、平均年齢が高く、若手は活躍しにくい雰囲気もあり、20代の早いうちからバリバリ稼ぐことは外資系の証券会社よりも難しい。
それから、年収とは関係ないが、外資系運用会社の場合は、日本人の社員の割合がかなり高い。外国人の従業員も日本語が堪能であったりするので、外資系証券会社と比較すると、かなり日本の会社に近い雰囲気である。
それから、外資系運用会社が面白いのは、給与水準は企業規模に必ずしも比例しないということだ。小規模でも一人当たりの運用資産額や収益額が高い会社が普通に存在し、そういうところは、大手よりも高い給与水準であったりすることも珍しくは無い。
その意味で、魅力的な穴場の会社が、いくつもあるというところが魅力である。
4. 国内系運用会社の年収について
①年収水準
国内系運用会社の年収については、親会社(銀行、証券、保険)の年収の8掛け位であると言われている。実際、そんなものかも知れない。
もっとも、国内系の運用会社も中途採用を実施しているところが大半なので、同じ職位でも年収水準が人によって結構異なる場合や、専門職制度の採用により、一部の社員は多めにもらっている場合も存在する。
例えば、国内系の大手の運用会社の年収水準は、新入社員はどこも同じ400万円スタートで、そこから年功序列で少しずつ上昇し、30歳時点で700~900万円レベルに達する。
大手生損保やメガバンクだと30歳でほぼ1000万円に到達することを考えると、若干見劣りする。
そして、10年ちょい働いて管理職になると、1000万円に到達し、40歳の時点で1100~1400万円位になるようだ。
もっとも、そこから先は上昇が鈍く、担当部長で1400~1500万、部長で1500~1600万、執行役員で1600~1800万位で、2000万円は難しい。
この点は、他の金融機関と似通っている。
なお、国内系大手の中では、野村アセットマネジメントと東京海上アセットマネジメントが頭一つ出ていると言われており、上記水準より1~2割高い場合もある。
②国内系運用会社の魅力
給与水準だけを見ると、特段他の金融機関と比べて魅力は落ちるかも知れない。しかし、メガバンク、証券会社、保険会社と違って、運用会社には泥臭いリテール業務が無い。
従って、地方を転々とすることなく、東京中心に運用に関連する業務に従事できるのが魅力だ。
また、見方によっては「ゆるゆる」と揶揄される場合もあるが、国内系運用会社のワークライフ・バランスはすこぶる良い。6時を過ぎると余裕で帰れることが多い。
そして、終身雇用でクビがないというのは他の国内系金融機関と同様である。
5. 運用会社の全般的な将来性と懸念事項について
運用会社は、基本的に自己投資(トレーディング)を行わないので、リーマンショックによる規制(ボルカールール)の影響を直接的に受けていない。
また、世界中の運用資産規模が増えていっているので、まだまだビジネスの種が尽きるということはない。
プレイヤーとしての企業数も多く、例えば、日本で活動している主たる外資系証券会社がせいぜい10社位であるのに対して、外資系運用会社の場合は、軽く50社以上ある。また、ヘッジファンドを含めれば、更に多い。
このため、転職の可能性ということを考えると、いろいろと選択肢も多く恵まれていると言える。
もっとも、近年、運用業界において懸念されている事項として、グローバルなパッシブ運用化の流れが指摘される。パッシブ運用というのはインデックス運用という言い方もされるが、アクティブ運用よりも手数料が低いパッシブ運用の比率が増えて、運用業界における手数料率が低下していくのではないかという問題である。
実際、米国のS&P500等の大型株については、80%以上がパッシブ運用によってなされていると言われている。また、この流れは、他のカテゴリーに拡がっていくのではないかという懸念もある。
他方、グローバルにおける超低金利の環境下、機関投資家の運用難の状態が続いている。そうした中で、オルタナティブプロダクト(オルタナ)へのニーズが高まり、市場規模は急速に拡大してきている。
このため、運用会社はオルタナに対する品揃えの強化や、拡大していく個人富裕層ビジネスへの導入といった対策を講じているところである。また、オルタナでははい伝統的資産である株式、債券、不動産等についても、投資対象国やカテゴリーを拡げる等の工夫をしているところである。
確かに、パッシブ運用の浸透は運用業界にとって脅威であるのは間違いないが、反面、グローバルの運用市場は拡大しているので、伝統的資産についてはエッジを利かせたプロダクトを導入したり、オルタナを強化することによって埋め合わせができるのではないかと期待される。
6. 運用会社と独立の可能性について
運用会社(投資運用業)の場合、最低資本金は5000万円であり、個人でも独立できなくはない。
もっとも、ひふみ投信とかスパークス投信等の例はあるかも知れないが、運用会社を新設しても成功するのは難しく、あまり考えない方がいいだろう。
また、PM職(Portfolio Manager)の人が独立してヘッジファンドを起ち上げるという途もあるが、そう簡単に成功するものではない。リーマンショックの際には、日本においてもヘッジファンドの数は堅く見積もっても、1/3以下になったのではないかと言われている。
独立をしたいというのであれば、金融機関は難しく、コンサルを選択するのが賢明であろう。
7. キャリアプランについて
外資系運用会社の特徴は、多くが新卒採用を行っていないことだ。
例外的に、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントやJ.P.モルガン・アセット・マネジメントといった投資銀行系や、ブラックロック、フィデリティなどが若干名を新卒採用している。しかし、超狭き門である上に、入社したとしても若い間は活躍しにくく、ミドル・バックオフィスに回されたりするリスクもあるのであまりお勧めではない。
一旦は、新卒で国内系の運用会社に入社し、30歳前後で、VPとして外資系運用会社に転職するのがおススメだ。
そうすると、20代の間は国内系運用会社でじっくりとスキルと経験を身に着け、30歳からはパシリをさせられることなく、外資会社で2000万スタートをすることが狙えるからだ。
8. 運用会社と転職エージェント
運用会社に転職するには、どういったエージェントを選択すべきか?これについては、国内系と外資系とで異なる。国内系の場合は、リクルート、doda、パソナキャリア、エン・ジャパン、JACといった大手が強い。面倒であるが、なるべく多くのエージェントに登録をし、その中で取捨選択をしていくのが良いだろう。大手とは言え、得意・不得意はあるので、幅広くカバーしておきたい。リクルートは登録していない人はいないかも知れないが、まだであれば、登録しておくべきだろう。登録はこちら(リクルートエージェントの公式サイト)
また、JACというのは国内・外資双方に強い大手であるが、意外に認知度が低いので、ここも登録しておいて損は無い。登録はこちら(JACの公式サイト)
さらに、金融機関の場合は、上記の大手に加えて、金融に強いブティック型のエージェントがある。こういったところは独自案件をもっていたり、アドバイス力も大手より高い場合もあるので、是非並行して登録しておきたい。具体的には、アンテロープ、コトラ、カナエアソシエイツあたりがお勧めだ。
<アンテロープ>
<コトラ>
<カナエアソシエイツ>
外資系の場合は、強いエージェントは国内系の場合と異なる。マイケルペイジ、モーガンマッキンリー、ロバートウォルターズ他数多くあるが、マイケルペイジとロバートウォルターズは大手なので、登録しておきたい。
<マイケルペイジ>
https://www.michaelpage.co.jp/
<ロバートウォルターズ>
https://www.robertwalters.co.jp/
最後に ~国内系運用会社と就職活動について~
国内系運用会社の入社難易度は高くは無く、トップ校の学生であれば、相応の準備(証券アナリスト)をすれば余裕であった。しかし、21卒あたりから、アセマネ業界の魅力が伝わったのか、外銀・外コン・商社が難化したのか理由は定かでないが、国内系運用会社の新卒採用が厳しくなったと思われる。
国内系運用会社で新卒採用するところは十数社はあるのだが、1社あたりの採用者数が最大手の野村アセットマネジメントやアセットマネジメントoneでも20名程度、普通の大手であれば5~10名程度と少ない。業界全部でも200名程度ではない無いだろうか。
そうなると、ハイスぺ就活生の一部が国内系運用会社に流れて来ると、一気に難化することは理解できる。
さらに、2020年初頭に発生したコロナウイルスがグローバルで猛威を振るい、世界経済に深刻な影響を及ぼしている。2021年5月時点においては、国内のワクチン浸透率はまだまだ低く、コロナ収束がいつになるかはまだわからない状況にある。金融機関の業績自体は好調ではあるものの、経済全体の景況感が良いわけではなく、雇用情勢においては楽観視できない状態である。
また、金融機関の場合、少子高齢化に伴う国内市場の縮小は不可避であり、今後、国内系の運用会社が新卒採用枠を大幅に増やすとは考えにくい。
従って、国内系運用会社を目指す場合には、証券アナリスト(CMA)の取得や、英語力の強化、個人での小規模な株式やFX投資等、十分な準備と情報収集をすることが望まれる。数年位前まではこれくらいの準備をすれば十分内定を取れたのであろう。しかし、直近の国内系運用会社の新卒採用者は、理系院卒のクォンツ、留学生やボスキャリルートを中心とするグローバル要員、若干の運用要員とかなりハイスペックな学生で占められ、営業部門を志望する場合もかなりの準備やスキル習得が求められる。
面接では、「日経平均株価の予想」「君のお勧め銘柄10個」「どんなETF作りたい」等の専門的な知識が要求される質問も予想され、十分な準備をしないとお話にならない。OB訪問等を通じ、金融市場の知識に加え、運用業界の実情についても周到な準備が期待される。