慶応大学・早稲田大学の法学部生が民間企業を志望する場合の考え方

1. 法科大学院制度定着下において、何故法学部生は弁護士を目指さないのか?

①極めて低い法科大学院への進学率

2004年に法科大学院制度がスタートし、弁護士を目指すには、法学部⇒法科大学院(既習)⇒新司法試験⇒司法研修所⇒弁護士、というコースがすっかり定着したと思われる。

このため、現在法学部に在籍している学生は、このコースを十分に踏まえた上で、受験において経済学部や商学部ではなく、法学部を選択した訳である。

そうであるならば、早稲田や慶応のような有力校の生徒であれば、法科大学院に進学すれば弁護士になれる確率は高いと思われるが、法科大学院への進学者数の割合は両校ともに10~15%程度と、ごく一部である。

(なお、慶応法学部は法律学科と政治学科に分かれているので、法律学科を母集団として計算した。)

②弁護士を目指す者が少ない理由は、弁護士の魅力の低下が原因か?

実は、有力大学法学部から法科大学院への進学率が低いのは、早稲田と慶応の両校に限った話ではない。

東大法学部が約20%、一橋大学が約15%である。

以上から考えると、メディアで時々報道されているように、弁護士数の急増に伴い、弁護士の年収が激減し、魅力が低下したことがやはり原因ではないかと推察される。

また、新司法試験の合格率は20%台と低く、ストレートで合格したとしても、法科大学院2年、新司法試験から合格発表まで半年、司法修習1年と、最短で3年半の時間と費用を考えれば、費用対効果的にペイしないということもその理由であろう。

高校生の間は弁護士を目指していても、法学部に入学後にこの事実を強く認識し、法科大学院への進学をあきらめる者は少なくないだろう。

③公務員への途

法学部の場合、公務員になる者が多いという特色がある。

東大法学部は、今でも官僚を目指すものが他行と比べて圧倒的に多いのだが、早稲田や慶応の法学部からも、一定数公務員を目指すものもいるだろう。

このため、法科大学院、その他の大学院、公務員を除いた者が、民間企業へ就職することとなる。

それでも、約7割以上の法学部生が民間企業に就職することとなり、法学部生に取っても、民間企業就職はメインストリームということである。

このため、経済学部や商学部の学生と同様に、民間企業就職を前提としたキャリア戦略を十分に考える必要がある。

(なお、一橋大学法学部の民間企業就職についてはこちら)
blacksonia.hatenablog.com

2. 法律関係の職種に拘らない場合

早慶の法学部生で、法律関係の職種に全くこだわりが無い場合は、話は簡単で、経済学部や商学部の学生と同様に、民間企業を目指せばいい。

ただ、留意点があるとすれば、伝統的に法学部のトップは司法試験合格者という長い長い歴史があったので、民間企業のいいところへの就職という観点が他の学部より弱い傾向にある。

従って、外銀・外コン・総合商社といった人気・難関企業を目指すには、他学部よりも頑張って情報収集をする必要がある。

就活においては情報戦が命であるので、情報で劣後しないように、他学部や他大学の者と十分に情報交換を行う必要がある。

また、もう一つの留意点は英語力である。

法律科目とか資格試験の勉強は完全に日本語の世界なので、そちらをまじめに学習すればするほど、英語を勉強しようという意欲も機会も失われてしまう。

外銀・外コン・総合商社等は、英語が必須なので、英語力で他学部に負けないように、留学はしなくても、TOEICのスコアメイク(少なくとも800点以上)は取っておきたい。

それから、一応用意しておくべきこととして、「何故、法科大学院への進学を目指さなかったのか?」という質問に対する準備をしておいた方が良い。

採用責任者(40~50歳)の世代では、法学部というと、司法試験が一番のエリートであり、法科大学院制度ができたので、法学部⇒弁護士、という感覚があるのだ。

「法律が詰まらなかった」「新司法試験が難しくて通る気がしない」「弁護士の魅力がない」といったネガティブな理由だと、自分自身の評価においてもプラスにならない。

ここは、「法律の途も悪くないが、民間企業に行く方が良いという」というポジティブな理由を考えることだ。

例えば、金融商品取引法や会社法を勉強している過程で、資金調達やM&Aビジネスに関心を持ち、金融機関で企業金融ビジネスをやってみたくなったとかである。

ただ、この辺は突っ込まれる可能性があるから、本当に自分の体験とからめて強固なものを作る必要がある。

3. 法律関係の職種・ポジションを目指す場合

①法務部門を目指す場合

法科大学院には進学しないものの、法学部で学習した知識を活かして、法務部門を目指すというのは十分合理性がある。

学生時代に力を入れたこと(法律の勉強)、志望動機(法務部門で活躍したい)というのは一貫性がある。

なお、「何故、弁護士を目指さなかったのか?」という質問に対しては、弁護士になるまでのコストと時間及び弁護士の魅力の低下をはっきりと答えて良い。

それは、面接官も十分にわかっているからである。

ただその際には、「個人の弁護士よりも、大企業の法務部門の方がスケールが大きく、多様な仕事に関われる面白み」というポジティブな点を必ず伝えるべきだ。

ただ、法務部門を目指す場合、留意しておかなければならないのは、将来、企業の法務部門で働く弁護士が増えていくことが予想される中、弁護士に対して非弁護士は見劣りしてしまうからだ。

特に、外資系(特に弁護士社会の米国系)の場合は、弁護士資格が無いとパラリーガル扱いをされてしまって昇格が頭打ちする場合もあるので、この点は留意する必要がある。

対応策としては、将来、アメリカの弁護士資格を取るといった方策もある。

②コンプライアンス部門への就職

コンプライアンス部門というのは、昨今のコンプライアンス重視の流れにより、事業会社でも大手企業の場合にはあるかも知れないが、基本的には金融機関のポジションである。

外銀でもコンプライアンス部門は別枠で採用しているところもある。

外資系証券会社の場合、法務とコンプライアンスは別組織であることが多いが、外資系運用会社のような小規模な組織では、法務・コンプライアンス部門と1つになっていることもある。

いずれにせよ、非弁護士でもコンプライアンス部門であれば問題なく応募することはでき、むしろ、法律の素養は歓迎されるスキルである。

従って、弁護士資格保有者との不利な戦いを避ける意味では、コンプライアンス部門を志望するというのは十分に理由がある。

③知的財産部門

メーカーの場合は知的財産部門は重要なポジションである。

ただし、特許法等の技術関連は法学部卒にとってはついていけないところが多く、著作権法・不正競争防止法等をメインとする、IT系がおススメである。

IT系の知的財産部門に強い人材に対する需要は強く、Wantedlyで検索しても、かなりのポジションが見つかる。

このため、IT系で知的財産部門に就けば、将来の転職スキルとしても有効だし、ベンチャー系企業の場合は社内異動が比較的簡単なので、将来事業企画系の部署に異動をして、究極的には起業を目指すということも可能である。

まとめ

法科大学院制度下の現在においては、法学部⇒弁護士、という見方をされる場合がある。

また、伝統的に法学部は民間企業就職者の割合が他学部よりも低かったこともあり、トップ企業の情報が相対的に不足しているリスクもある。

このため、他学部、他校生との交流を密にすべきである。

法務部門だけでなく、コンプライアンス、知的財産という周辺部門のプロフェッショナルを目指すには最適の部署である。

法科大学院に進学しないことを決めた場合には、しっかりとした就活対策をした上で、人気企業に挑戦したい。

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