1. そもそも、三井物産と伊藤忠の違い、わかっていますか?
就職人気ランキングが(最)上位で、入社難易度が高い総合商社である。学生が総合商社に憧れるホンネベースでの理由としては、「給料が良い」、「モテ度が高い」(カッコいい、ステータスが高い)、といったところだろう。
従って、5大商社のどこかから内定をもらえれば満足なので、それがどこの会社かはあまり気にならないというのがホンネだろう。
となると、もともと各商社の業務内容とかビジネスモデルにはあまり関心が無いのが出発点であって、企業研究が不十分なまま、OB/OG訪問に臨んで撃沈するというのがほとんどの学生であろう。
2. 「ビジネス」や「企業分析」が苦手な学生達
人気企業の採用基準が変わりつつあり、従来のように、体育会とか有名ゼミといった所属だけで採用される時代ではなくなってきている。
少子高齢化で国内市場が縮小していくのは明らかであり、成長部門・将来有望分野であるIT系は米国(GAFA)に押さえられてしまい、かつての日本の誇りであった電気セクターにあっても、韓国や中国勢に敗れ、一部の電子部品を除いては、とても世界トップとは言えない状況にある。
人気企業の経営者はこのような問題意識を当然持っており、このままでは、20年後に食っていけなくなってしまうという危機感を持っているわけである。ここから逃れるには、海外でビジネスをでき、ビジネスを創造できる人材が必須なわけである。
他方、学生は、そこの問題意識に気が付いておらず、今だに、体育会、ゼミ、バイトの話しかできないのが大半である。
「ビジネス」や「企業分析」は会社に入ってからでいいという学生と、グローバル人材やビジネス創造人材を求める企業側との間には、大きなギャップがあるのである。
この点に気が付いて準備している学生は、外銀・外コン・総合商社などから内定をもらい、高学歴と言えども、それができない学生はどこか大手からは内定をもらえても、本命企業は全落ちしてしまうのだ。
3. 三井物産の企業分析を直近の決算説明会資料を基にやってみる
前置きが長くなったが、三井部産の企業分析をやってみよう。分析のネタは、「2019年3月期第二四半期決算説明会資料」という2018年10月30日付のパワポ資料だ。これは、投資家(主として機関投資家)向けの資料であるので、世界中の
プロの投資家が注目するコンテンツである。
https://www.mitsui.com/jp/ja/ir/library/meeting/__icsFiles/afieldfile/2018/10/30/ja_193_2q_ppt.pdf
①中期経営計画の進捗状況
最初に出てくるのが、「中期経営計画」の進捗状況だ。「中期経営計画」とは何かいうことであるが、大体3年間位の将来の期間についての業績目標とそのための打ち手をまとめた資料だ。
これは、その企業の経営戦略の根幹が示されているので、就活生にとっても必読の資料だ。ちなみに、三井物産の中期経営計画はこちら。どの会社でもIR、投資家情報の中にある。
前頁、熟読して欲しいのだが、とりあえず要点だけということで、まず、4pを見てみよう。「中核分野」と「成長分野」とある。
中核分野は、金属資源・エネルギーだ。利益の内訳を見ると、金属資源・エネルギーだけで、全社の利益の過半数を占めている。業界では誰でも知っていることであるが、三井物産は、資源とエネルギーの会社なのだ。
5大商社の中で、圧倒的に資源・エネルギーの比率が高い。年によっては、利益の8割を資源・エネルギーを占めるということがあった。だから、資源・エネルギーをやりたいという学生にとっては、うってつけの会社である。まず、ここを押さえる必要がある。
そして、次に、機械・インフラと化学品である。注目すべきは、実績と事業計画の比較であって、両分野とも、倍額以上の成長が期待されている。従って、この両分野に関心がある学生も面白いと思う。
さらに、考えて欲しいことが、この「中核分野」としている、金属資源・エネルギー、機械・インフラ、化学品の3分野の利益における全社利益に占めるシェアである。
実績でも事業計画でも、たった3分野で全社利益の8割である。言い換えると、それ以外は、寄ってたかっても全社利益の2割にもならない。だから、それ以外の分野に関心がある学生は、本当は三井物産を狙っても仕方が無いのである。ここをわかっていない学生は、まずアウトである。
もっとも、「成長分野」として、「ヘルスケア」「ニュートリション・アグリカルチャー」「リテールサービス」が挙げられている。ここは会社が何とかして成長させたいところなので、ここを目指してみるというのはアリかも知れないが、所詮はノンコア部門であるので、あまりおすすめはしない。
②経営成績の詳細
次に、10pを見てみよう。ここは、先ほどの頁と被るが、利益の部門別の内訳である。2017/9月期と、2018/9月期との比較がなされている。
ここでも、金属資源とエネルギーが突出していることが改めて確認できる。
2017/9月期は、今期よりももっと顕著で、金属資源とエネルギーが会社の利益の8割を稼いでいる。
鉄鋼、生活産業、次世代繊維とか、結構悲惨であり、こういうところに配属されると、社内における肩身も狭いし、ボーナスは低いだろうということが推察される。
結局、三井物産は金属資源とエネルギーの会社であって、実際は総合商社とは言えないような状況なのである。
もっとも、金属資源とエネルギーに偏り過ぎるとリスクが高いという点は経営陣も十分認識しているので、機械とか化学とか他の部門も伸ばしたいと考えているのだ。
③補足資料
ここで面白いのは、22pと23pである。メインの金属資源とエネルギーの詳細情報がコンパクトにまとめられている。三井物産を真剣に志望する学生は、こちらは必読である。
注目すべきは、エリア(国名)である。22pの右下の表を見てみると、
豪州鉄鉱石事業、豪州石炭事業、モザンビークという国名がでている。したがって、稼ぎ頭の金属資源事業はどこの場所で稼いでいるかというと豪州、モザンビークではないかと推察される。こういう国々に興味がある学生は向いているだろう。
また、モザンビークという聞きなれない国名が登場してきているので、こちらはどういう事業をどのようにやっているかについて、別途調べておく必要があるだろう。
次に、23pの右下の表を見てみると、国名・地名が出てきている。ここにビジネスの拠点があるということなので、そのエリアについても調べてみると面白いだろう。
これを見ると、オーストラリア、ミドルイースト、USA、テキサス、モザンビーク、シンガポールと出てくるので、さらに調べてみよう。
④質疑応答の要旨
それから、おすすめなのが、決算説明会での質疑応答要旨である。
こちらも、IR、投資家情報のところで開示されている。
https://www.mitsui.com/jp/ja/ir/library/meeting/__icsFiles/afieldfile/2018/11/06/ja_181031_meeting_qa.pdf
これは、プロの投資家(アナリストやファンドマネージャー)が経営者に対して行う質問なので、レベルが高い。でも、一応表面的な倍率が100倍の三井物産なので、内定を真剣に目指す学生は、この内容についていって欲しい。
例えば、1pの質問者1について読むと、鉄鉱石市況についての質問をしている。ここから、やっぱり三井物産は資源の会社なので、当然投資家もここを気にしているのだなあということがわかる。
また、Q7は、資源・エネルギー以外の中核事業である化学品に関する質問である。中核事業であるので当然投資家も気になるわけだ。ここで、「ノーバス」という言葉が出ているので、こちらも調べておこう。
まとめ
一口に五大商社といっても、事業内容・ビジネスモデルは全く異なる。しかし、恐ろしいことに、東大や早慶の学生でも、全然それをわかっていない学生も少なくない。
三井物産というと、資源とエネルギーの会社だと即座に感じないといけない。
そして、対照的な会社が伊藤忠であり、伊藤忠は資源とエネルギーの割合がもっとも低く、反対に三井物産が全く儲けていない、消費・リテールといったB to Cビジネスが強みである。
そういうことを考えると、三井物産と伊藤忠を併願するのはどうかとさえ思えるはずだ。(もちろん、練習用というのはアリだが)
たかだか、数十頁の日本語の資料だし、簡単に入手できるので、中期経営計画と決算説明会用資料は熟読しておきたい。