1. 最難関の外資系IBDが最高のキャリアなのか?
トップ校の中でも、特に、東大と慶応の学生に人気が高い外銀IBDであるが、労働環境や成功確率を踏まえた上で、それが最上のキャリアとは限らない旨、先日紹介した。
この記事では、東大⇒外銀トレーディング経由での、バイサイドでの成功事例を取り上げたが、今回は一貫してバイサイド(運用会社)で成功したケースを紹介したい。
2. 30代で年収1億越えのHさんのキャリアの概要
Hさんは現在国内系の小規模な運用会社(いわゆるヘッジファンド系)に勤務している。
前回紹介したNさんは、税金等の事情により、シンガポール在住であるが、Hさんは東京在住である。
年齢は30代後半であるが、年収は1億越えである。
もっとも、1億円を少し超えた位であり、トータルの年収はシンガポール在住のNさんの方が、かなり多いと推察される。
Hさんは、早稲田大学文系学部(修士課程)を卒業し、十数年前に、新卒で国内系大手運用会社(大手金融機関の子会社)に入社した。
配属先は、運用部門である。
そして、数年後に、別の国内系運用会社(大手金融機関の子会社)に転職した。
そして、ヘッジファンド(ファンド・オブ・ヘッジファンズ)系の業務に従事した。
2社目の国内系運用会社で5年以上勤務し、その後、現在の国内系の小規模な運用会社(いわゆるヘッジファンド系)に転職した。
そして、3年以上、優れた運用成績を残し、現在のポジション(シニア・ポートフォリオ・マネージャー職)に就任している。
Hさんの場合も、前回紹介したNさんと同様、一貫して運用系の職種に就いている。
Nさんとの違いは、勤め先に証券会社がなく、全て運用会社であることだ。
こちらも、極めてシンプルで無駄のないわかりやすいキャリアである。
3. Hさんのキャリア形成のポイント
Hさんのキャリアのポイントについて、以下概説する。
まず、学歴であるが、早稲田大学の文系学部出身だ。
最初から運用系の職種についているが、外銀のトレーダーに多く見られる東大理系学部の学歴ではない。
数学系の突出した計算能力があるわけではないことが注目される。
また、東大でも慶応でもない。
だから、東大理系学部でなくとも、運用系のキャリアで成功できるチャンスはあるということだ。
そして、最初の就職先であるが、国内系の運用会社である。
外資系の運用会社は基本的に新卒採用を行わず、ヘッジファンドはなおさら、新卒採用を行わない。
したがって、運用会社経由でヘッジファンドのポートフォリオ・マネージャーを目指す場合には、国内系の運用会社を狙うこととなる。
当時から、トップ学生は外銀を狙うと言ったブランド信仰がある中、国内系運用会社で(国内系大手金融機関の子会社なので、格下のようなイメージがある)、コース別採用も無かったので、ブランド重視のトップ学生は目もくれなかったであろう。
しかし、Hさんはそういうブランドとか見栄のこだわりはなく、運用のプロになるというキャリア戦略の下、国内系大手運用会社に就職したのだ。
数年後、Hさんは国内系の大手運用会社に最初の転職をすることとなる。
この時の意図はよくわからないが、ファンド・オブ・ヘッジファンズの運用をやってみたかったのだろう。
国内系⇒国内系の転職であるので、年俸水準はほとんど変わらない。
業務内容へのこだわりがメインの転職理由であろう。
なお、この最初の転職時は、リーマンショック後であるので、ほとんどのヘッジファンドが、やられてしまった後である。
当時はヘッジファンドで失敗して、職を失った人たちがごろごろしていたので、あえてヘッジファンド系の運用ポジションを狙うというのは勇気がある選択であろう。
そこで、Hさんはコツコツと運用スキルを習得し、5年以上勤務したのちに、現在の小規模な国内系ヘッジファンドに転職をすることとしたのだ。
国内系の大手運用会社であれば、ファンドマネージャーで運用成績が悪くてもクビになることはない。
配置換えになることはあるが、終身雇用が基本である。
他方、国内系といってもヘッジファンドの場合は、運用成績が悪いと、クビになってしまう。
したがって、Hさんにとっては、リスクをとってでも勝負できる自信が付いたということであろう。
この時の年俸は、基本給が千数百万円であり、ボーナスは運用成績次第の青天井という体系である。
もちろん、青天井といっても、利益というのは、
運用するファンドの大きさ × 運用成績、
の2つのファクターで決まる。
最初から多額の運用額を任されることは無いので、成功するにつれ、徐々に多くの運用額を任せてもらえることとなる。
したがって、良好な運用成績を継続して達成することができれば、どんどんと成功報酬の可能性は高まるのである。
4. 何も考えることなく、難しいからとか見栄でキャリア選択していいのだろうか?
Hさんは30代で年収1億円越えを達成した。
今では、外銀IBDでは30代での1億越えはまず不可能であろう。
外銀のトレーディング部門で成功して、ようやく1億だろう。
もちろん、ヘッジファンドの運用の仕事は、結果が全てであり、大変厳しい。
また、外銀IBDのように他に転職するという選択肢は無い。
しかし、そのチャンスをつかむことの可能性は、そもそも内定をもらえない外銀を狙うよりは高いのではないだろうか?
東大や慶応の外銀狙いの学生は、自分の将来、本当は何を求めるのかについて幅広く考察した方がいいのはなかろうか?