1. 三菱商事の中期経営計画との比較
総合商社の内定を真剣に狙う場合には、中期経営計画の深い理解が不可欠と考えられる。財閥系ということで、住友商事と三菱商事を併願する学生は少なくないだろう。
そこで、三菱商事との比較をしながら分析した方が両社の違いもわかって頭に入りやすいだろうから、まず、比較をしてみた。
(三菱商事と住友商事の中期経営計画比較表)
三菱商事 | 住友商事 | |
利益目標 | 9000憶円 | 無し |
ROE目標 | 2桁 | 2桁 |
配当方針 | 配当性向35%に引き上げ | 配当性向30%目安 |
事業ポートフォリオ戦略 | ROE向上重視で、価値向上が難しいと売却も | 特に無し |
デジタル戦略 | 既存事業はほとんど無い | ジュピター、SCSK等、
メディア・ICTでも稼げている |
人事制度改革 | 縦割り改善、若手登用等
柔軟化 |
働き方改革と健康経営の推進他 |
組織改革 | 事業ポートフォリオ、人材育成、デジタル戦略に注力した大幅な組織変革 | 特に無し |
資料の分量 | 9頁 | 32頁 |
①私自身の個人的な感想 ~三菱商事の方が断然良い~
当然この手の比較については、見る人の経歴や好みによって違いが出て当然なのだが、最初に私自身の率直な感想を述べると、全体的に三菱商事のものが断然良い。理由としては、以下の通り。
まず、三菱商事は明確な利益目標、しかも、9000億円という高いハードルを設定している。他方、住友商事は全然無い。数値が無いものは管理できないので、投資家視点で見ると、三菱商事が断然良い。
そして、三菱商事は高い利益目標実現に向けた全社的な戦略を明確に示している。ROE向上重視の事業ポートフォリオ、デジタル戦略強化、組織・人事制度の大改革がそうである。
他方、住友商事は、6つの事業部のそれぞれの戦略をバラバラに示しただけで全社的な一体感が見られない。
また、見栄えの面でも、三菱商事はコンパクトにまとめており、寄席合わせのような住友商事よりも、資料自体のROEが高い。
②三菱商事向けの感想
三菱商事は業界トップの自負があるから、併願している他社のことはあまり気にしないという話もあるが、他社比較を踏まえると、より説得力のある志望理由を話すことができる。
従って、OB訪問なり面接で、志望理由の話をするときに、「中期経営計画、住友商事と比べて、数値目標がしっかりとあるし、そのための戦略が明示されていますし、こちらが断然いいですよね。」
「ROE向上重視の事業ポートフォリオ戦略、強化部門に向けた組織改革、人事制度改革の内容が具体的で、特に変化が見られない住友商事と比べて、会社全体のやる気を感じることができました。」
という言い方をするのだろう。
③住友商事向けの感想
ところが、住友商事の面接ではそういうわけには行かない。住友商事の場合には、他の総合商社の併願状況が気になるので、嘘でもいいので、住友商事が第一志望と言わねばならない。
1つの事実でも、視点の違いで結論がまるっきり変わってくるので、三菱商事の比較の上だと、以下のような説明の仕方が可能だろうか。
「三菱商事の中期経営計画、9000億円とかいう凄い数字をブチあげていますが、
厳しいんじゃないでしょうか。その点、住友商事は凄い数字を投資家向けに
派手に見せたりしない堅実な感じが好きで、自分には合ってると思いました。」
「三菱商事は組織や人事制度を大幅にいじるようですが、実態がそれに付いていくのは現実的に難しい気がします。デジタル戦略も派手にやるよと言っていますがビジネスの種が無い。他方、住友商事は控えめにしか出していませんが、メディア・ICTの経営基盤はこちらが上であり、堅実に利益を積み上げられそうな気がしました。」
「資料について見ても、三菱商事は大きな利益目標をぶち上げていて一見派手に見えますが、よく見ると具体的な施策がないし、数値目標とのつながりが見えない。他方、住友商事は、各事業部ごとに具体的な施策や数値が掲げられており、こちらの方がコツコツと堅実に利益を実現していく感じで、私の性格に合っていると思いました。」
一般に、住友商事は「堅実」というイメージであるが、確かに、資料を読むとそのようにとらえることができる。面接ではポジティブに解釈し、自分自身の性格とのフィット感を伝えていけばいいだろう。
2. 住友商事の中期経営計画の読み込み
前置きが長くなったが、全体的な方向感をつかんでから、各論に入って言った方が良い。「木を見て、森を見ず」にならないように気を付けたい。
https://www.sumitomocorp.com/jp/-/media/Files/hq/ir/report/summary/2017/Final2020.pdf?la=ja
①2p:1.「目指すべき企業像」と「経営理念」
儲けや結果が全ての金融業界では、企業理念なんて本音ベースでは全然興味がない。しかし、総合商社の場合には、各社プライドがあり、企業理念的なものも、しっかりと理解しておくことが必要とされる。
したがって、住友商事から真剣に内定をもらいたい学生は、十分読み込んで各人なりの解釈と感想を持つようにしておきたい。
私の感想としては、相対的に「堅実」、悪く言うと「地味」な先入観があるが、
「豊かさと夢を実現する」とか「革新を生み出す企業風土を醸成する」とか、意外に新しい物好きで、前向きな姿勢を感じることができた。だから、ジュピターとかSCSKとか、そっち方面でも当てることができたなあというのが素直な感想だ。
タテマエのきれいごとを言っても、面接官には刺さらないので、自分のホンネに
置き換えて伝えられるように考えて見て欲しい。
②3p:マテリアリティ(重要課題)
マテリアリティという、外資系でも耳慣れない言葉を、しかもカタカナで使っていて、わかりにくくてセンスが悪いと思った。最初、「マタニティ」と読めてしまった。
それはさておき、ここは根幹なので、6つのマテリアリティは全て覚えて欲しい。
ここに、「ガバナンスの充実」というのが面白い。ガバナンスと言うのは、広く内部管理態勢(法務・コンプライアンス、リスク管理、内部監査等)を刺すのであるが、経営目標を達成する上でも「守り」の姿勢は忘れていないということだ。
従って、コーポレート部門を志望する学生は、ここに共感したことを伝えていいだろう。
③4p:全体像
ここでは、中期経営計画の実現に向けての基本的な施策が紹介されているので重要である。
既存事業のバリューアップというのは当然であるが「次世代新規ビジネス創出」と「プラットフォーム事業の活用」という点が気になる。具体的な内容は、6~8pに記載されている。
④6~7p:成長戦略2 次世代新規ビジネス創出
成長戦略の柱である、次世代新規ビジネス創出であるが、ここでは3つの成長分野に3年間で3000億円程度を投入というところが具体的で注目される。3000億というかなりの金額である。
もっとも、投資対象領域の3分野とは、第四次産業革命領域、ヘルスケア、社会インフラとかなり後半である。IoT、AIというキーワードもあり、製造や物流というモノが絡むところを含めてビジネスチャンスを掴もうということである。
その中で、社会インフラというのはITがメインではないので逆に特色がある。スマートシティとか次世代エネルギーマネジメントというキーワードがあり、そちらの領域に関心がある学生は深堀すると面白いだろう。
⑤成長戦略3 プラットフォーム事業の活用
プラットフォームというのは、ここでは、既存の住友商事の経営資源全般を差し、「事業の掛け合わせ・組織間の連携」によって新たな価値創造を狙うというわけだが、資料を見ただけでも縦割り感が強く、その実効性には疑問がある。
(もちろん、こういうことは面接ではいうべきではないが…)
まあ、この戦略は本音では自信作ではない可能性があるので、「住友商事のプラットフォーム戦略凄いですね!」とおだてても、「コイツ、わかってないな。」と面接官に心の中で思われるかも知れないので、各論で攻めた方がいいかもしれない。
⑥11p:3-3 経営基盤の強化
外銀や国内証券IBD志望の学生からすると、「待ってました!」という財務関係のネタである。
学生は(というか社会人もだが)、財務系が弱いので、コーポレートの財務系志望者以外は、スルーしがちであろうが、だからこそ他の学生に差別化できる箇所なので、しっかりと理解・把握しておきたい。
まず、言葉の意味をしっかり理解しておこう。「基礎的収益CF」「基礎収益」というのは、住友商事の独自のワーディングなので、欄外も読んで考えておくこと。別に知識の有無は本質ではないのだけど、資料をすみずみまで読み込んでいたら「誠意」「やる気」の面で全然違ってくるだろう。一応、表面上の倍率が100倍の住友商事なので、事前に準備ができて差別化できるところは、手を打っておきたい。
それから、「キャッシュ・フロー」「FCF(フリーが付くCFと付かないCFは何が違うか)」「有利子負債(ただの「負債」といった、会計・ファイナンスの
基本用語を正確に押さえておけば後々も便利である。
なお、「コア・リスクバッファー>=リスクアセットバランス維持」というのは
正直、私もよくわからない。上記の基本事項を把握した上で、財務とかリスク管理を志望する学生は質問しても問題ないだろう。
⑦12-13p:3-4 定量計画、3-5 配当方針
三菱商事のような利益目標は無いけど、2018年予想の当期利益、基礎収益の3200億とか3400億円という数字はおぼえておこう。
また、ROA4%以上、ROE10%以上というのは重要な数字だから覚えておこう。
ちなみに、ROE=財務レバレッジ×ROA、という関係があるので突っ込まれるかどうかは別として、財務の教科書を読んで理解しておこう。
それから、配当方針というのは地味目で退屈な項目に見えて、スルーする学生は少なくないだろう。ところが、経営者からすると配当政策というのは結構重要である。三菱商事では「経営人材」という言葉を使っていたが、経営人材を目指すのであれば、配当についても考えておきたい。
ここでは、配当性向30%程度を目指すということであり、三菱商事が35%に上げたいという点と比較して覚えておきたい。
税引後純利益の中から、純投資に回してそれによる将来の利益で株価を上げることによって株主に報いようとするのか、或いは、今の時点で現金配当をすることによって株主に報いようとするのかの方針の違いである。
11pの図にあるように、配当を増やせば、その分投融資は減ることになってしまう。11pと13pをチェックしながら読み込むと理解が深まる。
⑧15p以下:appendix
6事業部門の部門戦略と内訳が具体的に記載されている。全体を把握するのは当然だが、特に自分が志望する部門については、数字や会社名も全て覚えておこう。
これは、証券アナリストが使うプレゼンスキルであるが、紙をみずに、「固有名詞」「数字」をすらすら話すことができれば、物凄く詳しく見える。
各部門2p程度なので、覚えるくらい読み込もう。
例えば、27~28pの「生活・不動産」でいうと、「サミット」「トモズ」「Fyffes」などは各HPを見るなどして深い理解をしたい。
そして、商社というのはB to Bの卸売りが起源であり、B to Cは弱いため、小売りビジネスは苦手だったりするのだが(最近はコンビニ買収で頑張っているが)、サミットというのは例外的に成功してきた小売りビジネスである。首都圏の学生はサミットとトモズには足を運んで、他のスーパーとの比較の上での意見・感想が言えるといいだろう。
最後に
中期経営計画というのは、会社の個性が出るので、面白い。三菱商事と住友商事では、資料の形式・中身が全く異なっている。企業分析も、比較しながらやった方が、各社の特徴が浮かび上がって面白いだろう。
三菱商事と住友商事は財閥系という共通点があるが、伊藤忠などを絡めて分析すると、更に面白いだろう。
十分に読み込むのは当然であるが、問題は、自分で読んだり、学生と自主ゼミを
やっているだけでは理解に限界がある。そこで、イケてる社会人(できれば40以上の面接官に近い考えの人)に見てもらえたらいいだろう。
別に総合商社じゃなくても、IBDとかコンサルとか、別の分野で活躍している人でも構わないので、理解を深めて、他の学生との差別化を心掛けたい。