就活において、外銀IBDでM&Aを目指す前に考えておきたいこと

1. 何となく外銀IBD、何となくM&A?

外銀IBDというのは就活の世界における最高峰で最難関である。

単に、最難関だからそこを狙いたいという、受験で負けたことがない自信満々の東大生が外銀IBDを狙うのは理解できる。

また、受験で東大を落ちたから、就活では最高峰の外銀IBDの内定を取ってリベンジしたいという慶大生もいるだろう。

外銀IBDの場合は、インターン期間中、M&Aの提言をさせられるジョブと呼ばれる選考作業が存在する。

志望者は、ジョブに備えてM&Aのプロセスに専心しているのだろうが、外銀IBDでM&Aをすることについて考えておきたいことがある。

2. そもそもM&Aてそんなに凄いことなの?

①M&Aの提言は学生が3日でできちゃう程度なの?

ジョブでM&Aの提言をさせられることは定番であって、具体的な作業内容は、One Careerなどが紹介してくれている。

www.onecareer.jp

ジョブでは、2~3日でM&Aの提案をパワポに落とし込んでプレゼンをさせられるのであるが、そもそも、学生が2~3日の作業でとりあえず恰好がついちゃう業務ってそれほど凄いものなのだろうか?

②こういったM&Aの提案作業って、同業他社と差別化できるものなのだろうか?

学生がジョブで提案するM&Aは形式だけを満たしたものであり、プロのバンカーが行うものは違う!、との反論は当然あるだろう。

しかし、同じようなデータベース、分析ソフトが使われる中、こういったM&Aの提言作業で差別化することは本当にできるのだろうか?

もちろん、バンカーが見れば違いがわかるかも知れないが、提案を受けるのは事業会社の役職員であり、いわば素人である。

そういう非専門家が違いがわかるような差別化できた提案をM&Aにおいて提供することは可能なのだろうか?

可能であるとすれば、どういった点が差別化要因になるのだろうか?

③提案内容とかプレゼンの巧拙で差別化できたとしても、提案内容は実現可能なのだろうか?

データベースを回して、M&Aの買いの提案をするのだろうが、そもそも、買収対象企業は売ってくれるのだろうか?

売ってくれるかどうかもわからない買収提案をしていいのだろうか?

そうでないとすると、始めに売り案件ありきということになる。

そうすると、M&Aの提案作業は一体何なのだろう?

④同じ外銀のIBDのバンカーの優劣は何で決まるのだろう?

同じ外銀のIBD内であれば、チームプレイである。

すると、提案ノウハウとか情報は共通しているわけであるから社内のバンカー間では何が差別化要因となるのだろう。

アナリストで脱落するものと、MDまで昇格できるものとの違いは何だろうか?

また、運の要素はどれほどあるのだろうか?

3. 上記を踏まえても、それでもM&Aをやりたいだろうか?

①キャリアを選択する上でのフレームワーク

キャリアの選択の是非をチェックするためのフレームワークとして、その仕事を「好きか?」というのと、

その仕事で「勝てるのか?」という2つのチェックポイントがある。

そこで、M&A業務については、夜遅くまでかかって、財務データをほじくり返して、エクセルで計算をして、パワポに落とす作業が本当に「好きか」自問することとなる。

そういった作業が本当に「好き」であれば、この点はクリアである。

次に、「勝てるか?」のチェックである。

ジョブを一緒に行うメンバーと比べて、自分は、疲れずに作業に集中できる体力で他のメンバーより勝っているか、企業財務分析能力で他のメンバーよりも優れているか、財務分析ツール等の作業は他のメンバーよりも優れているか、パワポを用いたプレゼン能力は他のメンバーよりも優れているか、といった点を考えることとなる。

「好きか」というのは主観的な切り口であるが、「勝てるか」は客観的な切り口なので、第三者が見ても、自分が優れていることを認めてもらえる必要がある。

②以上を踏まえても、自分はM&Aをやりたいだろうか?

自分はM&A業務が大好きで、それを構成する個々のスキルにおいても、他のトップ校の学生よりも優れている自信がある。

そこまで言えるのであれば、外銀IBDにチャレンジしてもいいかも知れない。

しかし、その前にまだ考えなければいけないことがある。

4. 他にもっといい仕事は無いか?

①外銀IBDではなく、外銀のトレーディング業務の方がいいのでは?

自分はM&Aのような労働集約的な作業が好きだし、競争力もあるとしよう。

それでは、同じ外銀のトレーディング業務はどうなのだろうか?

外銀の社員に聞いてみるといいが、IBDでM&Aをやるよりも、トレーダーになった方が高給を稼げる可能性が高い。

リーマンショック後の規制により、トレーダーも以前ほどは稼げなくなったが、1億円以上稼げる可能性は、IBDよりも高いし、深夜までの地道な作業が要求されるわけではない。

(もちろん、トレーダーで勝ち抜くのも大変であるが…)

IBDよりもトレーダーの方が、美味しい仕事と言える。

それでも、IBDがいいのだろうか?

トレーダーの選択肢は検討しただろうか?

どうして選択しないことにしたのか?

能力が無いからか、単に好きでは無いのか?

トレーダーの能力が無いからIBDに行くというので満足か?

このように、他の職種と比較した上でもIBDがいいのだろうか?

②起業家を目指すのはどうか?

お金の面で、外銀IBDも成功した起業家には全く勝てない。

20年間生き延びたとしても、せいぜい、2~3億しか貯まらない。

他方、起業家は成功すると、余裕で二桁億を超える。

もちろん、IPOというのは時間もかかるし、そこまで辿り着けるのはほんの一握りだ。

しかし、最近では、M&Aによる比較的小規模なベンチャー企業のEXITが増えており、20代で数億円のキャッシュを手にする起業家も散見される。

そういう起業家は、学歴、職歴、英語力等のスペックにおいて、自分より遥か下ではないのか?

外銀IBDの自分の方が能力が下なのだろうか?

自分は起業家には向かないのだろうか?

向かないとしたら何故だろうか?

起業でちょっとした成功もできない者が外銀IBDで本当に勝てるのだろうか?

と自問自答すると、起業を目指すという選択肢もでてくるのではなかろうか?

起業で成功しやすい会社というのは実はなかなか無いのだけれど、例えば、リクルートとか楽天なんかも、会社訪問するのはどうか?

外銀IBDよりも、はるかに美味しい世界が外にはまだまだありそうだということを念頭においてもいいのではないだろうか?

最後に

外銀IBDを目指すというのは理解できる。

しかし、外資金融の非IBDでそこそこ成功した人達から見ると、リーマンショック後も相変わらず、トップ学生が金太郎あめのように「M&Aやりたい!」というのは謎に見える。

実は、海外でもこの傾向があり、米国トップMBAの学生の中にも「M&Aをやりたい!」というのは少なくないそうだ。

(4~5年前にUBSのMDから聞いた話だけど。)

外資系金融の場合、部門・職種に関わらず、MDレベルまで行くとそれなりに稼げる。

例えば、長期低落傾向のアナリストでもアナリスト・ランキング上位をキープすると、7000~8000万くらいは稼げる。

また、人事、経理、コンプライアンスといったバックオフィスでも、MDレベルだと5000万を越える。

さらに、バイサイド(外資系運用会社)でも、Director(SVP)レベルまで行くと、結構年をとっても、3000~5000万円位であれば十分に可能だ。

そういうわけで、入るのが滅茶苦茶大変で、入ってからも滅茶苦茶大変で、相場や上司と言う運の要素にも大きく左右され、スキル的には実は国内系IBDと大して変わらず、案件は個人のスキルではなく、会社の名前と販売網によって獲得するもので、しかも、それほど稼げるわけでもない外銀IBDを本気で狙うのであれば、他の選択肢も十分に考えないと勿体なくないだろうか?

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