就活を意識した上で、三菱商事の中期経営計画(「中期経営戦略2021」)を読み込んでみた

1. 総合商社の就活において、中期経営計画を読み込む意義

①中期経営計画は、三菱商事の精鋭たちが丹精込めて作り上げたもの

三菱商事はESで中期経営計画の読み込みを前提に作文を要求することがある。従って、機械的に総合商社の就活に際して中期経営計画に目を通すのかも知れない。

しかし、中期経営計画は漫然とESのために目を通す書類ではない。何故なら、皆のあこがれの三菱商事の精鋭たちが各部署から集まり、多大な労力をかけた力作だからである。

中期経営計画は、全世界の投資家・取引関係者等に発信される、オフィシャルな
会社の目標であり、社長もコミットするものだ。したがって、ここには就活においても大きなヒントが一杯詰まっている。

また、三菱商事の経営計画をしっかり読み込めば、他の総合商社の中期経営計画との差異がより明確に浮かんでくるはずだ。

このため、真剣に三菱商事を目指すものは、じっくりと読み込んでおきたい。

②「さらっとしか読まなかったけど内定した」は大概ウソ!

あと注意しないといけないのは、外資就活とかワンキャリアとか、ハイエンド学生向けにいろいろな内定者のコメントが出ているが、中期経営計画はあまり読まなかったけど内定したというのは大概ウソと思っていい。

別にそういう内定者は、嘘を書きたいわけではないが、人間必死でやっていても、内定をもらうとそれまでの苦労はその瞬間に忘れてしまうものなのだ。また、三菱商事から内定を取ろうなんていう学生は、いい格好しいが多いので、
「必死でやりました」的なアピールはやりたがらないものなのだ。

それに、知らないよりは知っている方が当然有利なわけなので、三菱商事を受けようという優秀な学生であれば、たかだか正味8頁(解説書6頁)の資料なので、暗記するぐらい読み込んで当然である。

2. 中期経営計画を読み込む際の視点

ただ漫然と繰り返し眺めるだけでは、頭に入りにくくて効率がわるいので、以下の2つの点に留意した上で読み込んでいきたい。

①各頁(或いは図表)のポイント、言いたいことを書き留めてみる

要は、何がいいたいかということを考えながら読むということである。箇条書きで手を動かして紙とかPC端末に記載すると、読み込んだり、就活の過程で、理解度が深まり、その箇条書きがどんどんブラシアップされていくはずだ。

②自分の考え、疑問点を書き留めてみる。

「自分の頭で考えてみる」という姿勢が大事。外資就活とかワンキャリアとかに登録すると、内定した先輩たちのESとか面接の対応を知ることができるが、人のマネをしようとしても、競争率100倍の総合商社は突破できない。

マニュアルに沿って吐き出すだけでは説得力もオリジナリティも出せない。自分なりに考えていく習慣をつけることが重要だ。

なお、三菱商事の中期経営計画(「中期経営戦略2021」)には、ご丁寧にWord文書による解説まで用意されているので、こちらを参照しながら読み込んでいくといい。

3. それでは「中期経営戦略2021」を読んでいこう

https://www.mitsubishicorp.com/jp/ja/pr/archive/2018/files/0000036011_file1.pdf

まず、各頁に行く前に、これは読み手の専門性・能力によって、見方が変わってくるだろう。従って、まず、ここでは読み手である私の特性について触れておく。

・国内・外資合わせて金融キャリア20年以上
・商社やメーカーで働いた経験は無し
・資源エネルギー関係は強くなく、ネットビジネス系は詳しい

従って、他のバックグラウンドの人が読むと、違った見方になるだろう。もっとも、学生は自分なりの考えをしっかりと持てれば良いだろう。

①1p:中期経営戦略2021の骨子

解説書も合わせて読むと、非常に重要なことが掛かれている。商社(三菱商事)のビジネスモデルの根幹が記されている。

それは、「事業ポートフォリオ戦略」だ。三菱商事は歴史的にも「事業ポートフォリオ戦略」を採ってきたが、将来も、この「事業ポートフォリオ戦略」を変わらず続けていくということをここで宣言している。

学生の疑問の中で、「総合商社はいろいろやっているから、何を志望動機として良いかよくわからない」というのがあるが、これこそが商社のビジネスモデルである。

言い換えると、「商社は、世界中で、ありとあらゆるビジネスを行うことが可能となるインフラを持っている。その仕組みの下、その時代時代で一番儲かると思われる地域・ビジネスに投資をして稼ぐことができる。」、これが商社のビジネスモデルの根幹である。

従って、「何でもできる」というのが商社の特徴で、勝敗のカギは「儲かる地域・ビジネス」に投資をすることができたかどうかである。

三菱商事のケースで考えてみると、ここ20年位、資源価格が高騰した。三菱商事は資源関係に厚く投資をしていたので、がっちりと儲けることができた。(もちろん、損した年もあったが…)

また、「生活」関連では三菱商事(というか商社全般)が従来苦手であった川下のリテール(要するに、ローソン)に勝負して(多額の投資をして)、勝つことができたのだ(儲かったのだ)。

他方、ITとか金融とかは、からっきしダメで、GAFAのような恩恵を受けることは全然できなかった(全然投資ができなかった。先を読めなかった。)

だから、総合商社の志望動機なんて、この「グローバルで何でもできる事業ポートフォリオ」モデルがユニークで面白いからであって、国内でしか儲けられない銀行や保険とは全然異なるわけである。

ここの根幹を理解できないと、説得力のある話ができるわけもなく、落選確実となってしまう。

成長メカニズム、人事制度改革、定量目標・資本政策は、各頁で言及されている
ので、そこで見ていく。

②2p:更なる成長に向けた事業ポートフォリオ戦略

解説書を合わせて読んでいこう。まず、この頁のポイントについて、「時代の変化を捉え、その時代に最適なポートフォリオを自らの意思で構成していく責務があります。」と書いてある。

時代の変化を捉えて、儲かるエリアとビジネスを的確に予想し投資することによって、儲けようということだ。

この頁で重要なのは、商流(川上、川中、川下)と事業領域(生活、モビリティ・インフラ、エネルギー・電力、サービス(IT、物流、金融等))の2軸で
分類していることだ。3×4=12のセクターが、ここで示されている。

この12のセクターのうち、どこに重点投資をすれば儲かるかは当然わからない。
いろんな情報や経営資源から、予想して実行するのが商社の仕事だ。ここで、学生としては、12のセクターのうち、どれをやってみたいか、その理由は何かと言うのを考えていけば良いだろう。

それから、ここで覚えておくべき知識は、4つの事業領域のうちの3つ、「生活」「モビリティ・インフラ」「エネルギー・電力」は、既に三菱商事が強みを確立し、儲かってきた領域であるということだ。ここでの課題は、「川下」と明確に記載されているので、覚えておこう。

他方、4つの事業領域のうちの残りの1つ、サービス(IT、物流、金融)は、三菱商事に強みが無く、課題と言える分野だ。強く無いからやるべきでない、強くないからこそやるべきだ、というのはどちらが正解と言うことは無い。

ネット、金融ビジネスに興味・自身がある学生は、ここを強化したいというロジックで押すのは面白いし、反対に、資源をやりたいという学生は、ここはやるべきでないというロジックでも構わない。

いずれにせよ、12のセクターにまんべんなく張る(投資をする)というのは無いので、各自、どこを重点的に攻めたいか考えてみると良い。

③3p:事業ポートフォリオの多次元分析による事業戦略構築

この頁については、特に解説書でのコメントが無い。内容としては、2pの事業ポートフォリオの続きであり、「地域軸」というのがキーワードである。

先ほどの、商流と事業分野という2軸によって生み出される12のセクターを
地域という視点を加えて更に開設したものである。

図表の下の「地域軸による事業ポートフォリオ戦略」の箇条書き4か所は目を通しておこう。「ミャンマー」「インド」「アフリカ」という具体的なエリア名が
出てきているので、興味がある学生は深堀しておきたい。

④4p:循環型成長モデルとROEの維持向上

この頁から、内容が変わる。それまでの2pは、頁の右上が「1 事業ポートフォリオ」だったけど、この頁から「2 成長メカニズム」となっている。(7pまで)

実はこの頁は超重要。何故なら、今回の経営戦略の考え方の骨子、従来とは異なる価値観が示されているから、これを理解しないと話にならない。

また、図表がわかりにくいこともあり、内容的にも、9割以上の学生は理解できないだろう。よって、この頁を正確に理解できるか否かで、他の学生に対する物凄い差別化要因となる。

解説書と併せて読んでいくと、「成長の芽を発掘し、成長の柱・収益の柱へと事業価値を向上させる。」というのは従来からのビジネスモデルである。

ポイントは、その次で、「三菱商事による価値向上が難しくなった事業は、収益の柱であっても、事業会社と三菱商事が合意の上、新たな成長の柱候補に入れ替える」というくだりである。

これの意味をおわかりだろうか?わかりやすくいうと、「100億円投資をして、5億円の利益を継続している事業であっても、将来も利益が5億円で横ばいと予想さえるのであれば、それを売却して、現在1億円しか利益が出ていなくても将来10億円以上の利益が見込まれる事業に新たに投資をする。」ということである。

利益の絶対額だけではなく、利益の質(成長性と投資効率)を見るということである。

ここでのキーワードは「ROEの向上」であり、何とこの4pにおいて3回も登場している。従って、「ROEの向上」重視にしたんですよね?、というと理解していると思ってもらえるだろう。

なお、ROEは一生使える概念で、社会人でも言葉は聞いたことがあっても、深く理解しておこう。書籍はいろいろあるが、とりあえずこれがおススメである。
https://www.amazon.co.jp/%E3%82%88%E3%81%8F%E3%82%8F%E3%81%8B%E3%82%8B-ROE%E7%B5%8C%E5%96%B6-%E5%B0%8F%E5%AE%AE-%E4%B8%80%E6%85%B6/dp/4492093249

まあ、このROE向上を重視するということは、株主(株価時価総額)重視の経営を意識しているということで、従来の商社の投資よりも、金融機関・投資ファンドな視点での投資を重視するということである。

これ何が凄いかというと、普通の日本企業はマイルドなので、そこそこ儲かっていたら成長しなくてもそれでいいでしょうというイメージなのだが、三菱商事は、これからはそこそこ利益が出ていなくても成長が見込めなければ売却して、他の成長分野に投資をします、ということを言っているので結構ドラスティックな変化なのだ。もちろん、どこまで踏み込んで実行できるかはわからないけど。
(「事業会社と…合意の上」と書いてあるのが中途半端)

それから、解説書に、これを実行するために「それらを実行する経営人材」を惜しみも無く動員、とあってこれも重要。

ROEという資本効率重視の、ハゲタカファンド的な視点で投資をします、というものの、商社の投資は株を持つだけでなく、人を送り込んだ上で事業にも手を出すタイプのものである。だからこそ、「経営人材」が重要なのである。

だから、自分は「経営人材」を目指したいというのは、三菱商事のニーズに合ったことなので、将来の目標として使えるだろう。

そういうわけで、この頁の理解度は重要であるので、OB訪問で、「中期経営計画の4pは難しいですよね。僕は〇〇(上で書いたこと)と理解してるのですが、どうでしょうか?」というハイレベルな質問をすると、良い評価が付くだろう。

⑤5p:組織改編

ここでのポイントは解説書の冒頭でも書かれている通り、グループ間の垣根を低くするということである。

ご存じの通り、三菱商事は事業部ごとの縦割りが激しく、一つの部門に配属されると一生そこという具合であった。ところが、それだとフレキシブルなビジネスチャンスをつかみきれないということで、柔軟化しましょうということだ。もちろん、どの程度変わるのかはわからない。

押さえておくべきは、解説書の4pの最初の箇条書きである。各グループごとのミッションが明示されているので、ここはきっちり抑えておこう。6グループは既存の強みをさらに伸ばすことがミッションであり、他の4グループは頑張りましょうということだ。

「当社の過去を振り返っても、事業環境が複雑なところほど、人材が成長すると
確信しており、この4グループから次世代を担う成長の柱・収益の柱が誕生することを大いに期待しています。」とここまで明確に書いてくれている。

したがって、この4グループ(総合素材、石油・化学、産業インフラ、複合都市開発)について興味がある学生は、徹底的に掘り下げておきたい。難しいが大きな期待を持たれている分野である。

⑥6p:新グループのミッション

10個しかないので、どういうグループがあってどういう仕事をしているかについては覚えておこう。

⑦7p:事業構想力とデジタル戦略の強化

デジタル重視なんて、一応5GとかAIの時代と言われるので、とりあえず形だけ入れておくかという風に読めなくもない。

しかし、ここでは一応、三菱商事の問題意識を把握しておいた方が良い。

今では、資源ビジネスを含む従来のビジネスで十分な利益を上げ、最高の人材も採れているので将来の不安はなさそうにも見える。

しかし、経営者の立場からすると、資源ビジネスは市況ものなので水物だし、少子高齢化に伴い国内市場が縮小するのは間違いない。また、財閥企業特有の三菱系企業との付き合いが切れないという弱みもある。

従って、将来の確固たるメシの種を見つけられるか、経営者は不安で一杯なのだ。

そして、財閥系総合商社は、ネット・ITビジネスに弱く、GAFAのような大きな成長機会(或いは通しを通じた利益)は今まで完全に取り損なってきた。

堅苦しくて伝統的ビジネスに強い三菱商事には、そもそも、ネット系のビジネスは向いていないかも知れない。

しかし、今後も間違いなくネット系ビジネスは拡大するだろうから、自分達には向いていないなどとは言っておれない段階であり、デジタル領域で勝負しに行かざるを得ない。

こういった三菱商事の悩みを理解した上で、7pとその解説書を読んでもらいたい。やりたくなくても、ネット・IT系はやらざるを得ないのだ。

このため、ネットビジネスに強い又は関心がある学生は、この分野を志望するのも面白い。確実にニーズがあるし、先輩たちでも得意な人はあまりいないからだ。

だから、学生時代にネット企業で月に数十万円位は稼げた経験があり、英語も堪能な学生であれば、グッと内定に近くなるだろう。

Google、Yahoo、Cyber Agentあたりも志望している学生は、ここを攻めると面白い。

⑧8p:人事制度改革

人事制度の改革は、今回の中期経営計画の目玉の一つでもある。硬直的でコンサバだった人事制度にメスを入れようということだ。

この中では「経営人材」がキーワードだ。従来は経営ポジションにつくまで20年かかったところ、10年くらいから登用すると書かれている。

果たして、どのような運用をするのかはまだわからないが、どのような改革をするのかについては、この頁と解説書を熟読しておいて欲しい。

⑨9p:定量目標・資本政策

最後は、数値・財務的な目標だ。2021年度に9000億円の連結純利益、うち、市況系は2500億、事業系は6500億という数字は当然覚えておこう。

なお、市況系2500億というのは、現状をそのまま横ばいで引っ張っているだけである。市況のところは会社の努力ではいかんともしがたいので横ばいにしているのである。

そして、事業系を現状の3920億円から6500億円もの6割増という結構高いハードルを目標としている。

なお、図表でも解説書でも「二桁のROE」と、ここでもキーワードが登場しているので押さえておこう。

また、「逆L字領域」という言葉が出てきているので、2pの図表を見て確認しておこう。やはり、ネット・IT系でも稼げるかどうかがカギなのだ。

外銀と併願する学生は、財務系は大好きだろうから、この頁は隅々まで見るだろう。図表でも解説書でも配当性向の引き上げの話がでているので一応確認。

株主対策として、税引利益の中から、現金配当と言うキャッシュで還元するのか、自社株買い或いは事業再投資で株価(キャピタルゲイン)で還元するのかと言う考え方がある。

ここで、三菱商事は現金配当を引き上げようということを示唆しているが、それは、事業投資に振り向けた方がいいのではないかという議論もある。

コーポレート志望とか、財務に自信のある学生は、こういうところを突っ込んで、やる気をアピールする手もある。

最後に

三菱商事の中期経営計画はコンパクトにまとまっており、解説書も丁寧でわかりやすい。自分も三菱商事で働いてみたくなった。

三菱商事はハイレベルな争いであるので、中期経営計画を読み込むのは最低限必要である。しかし、読解力には大きな差があるだろうから、読み込みの深さや質で大きな差を付けることが可能だ。

従って、イケてる学生間で自主ゼミをやってみたり、投資銀行や商社の先輩から
中期経営計画について議論をして、深い理解をしておきたいところだ。