1. 弁護士までの茨の道
①そもそも弁護士になれるのか?
司法制度改革によって、弁護士になり易くなったとはいえ、新司法試験の合格率は20%台であり狭き門である。
合格率最上位の法科大学院に進学できたとしても、その合格率は50%程度であり、果たして合格できるのか不安はある。
②ストレートで合格できたとしても時間がかかる
それでも、最上位の法科大学院に進学でき、新司法試験も一発合格できたとしよう。それでも、弁護士として働くまでには時間がかかりすぎる。
法科大学院でプラス2年、新司法試験と合格発表までで約半年、司法修習が約1年間、合計すると3年半も遅れてしまう。
③お金がかかる
法科大学院は国立でも入学金と授業料を合わせて2年間で200万円弱かかる。
それに、給与制復活とはいえ、司法研修所での月給はわずか13.5万円。
弁護士になるまでの経済的な負担は小さくない。
④弁護士になってから元が取れるか?
以上のような、手間、時間、お金をかけても、弁護士になってから元が取れないというのはメディアで報道されている通りである。
ほんの一握りの渉外弁護士を除くと、地方で弁護士をやって、いいところ年収1000~1200万円(年金・退職金無し)というのであれば、民間企業に就職した方がいいのではと考えても不思議ではない。
2. 法科大学院志望者が民間企業への就活に切り替える場合のポイント
①ES、面接時における志望動機等は固めやすい
どれくらい真剣に法科大学院を目指していたかによるが、法務部門を志望することのストーリーは描きやすい。
パターンとしては、
(1)法科大学院経由で弁護士を目指していたが、もともと企業法、金融法、知財に関心があり、刑事や家族法に興味がなかったところ、渉外弁護士を目指していた。しかし、制度改革によりそちらを目指したいとは思わなくなった。(ネガティブな理由)
(2)関係者に話を聞くと、大きい組織の中で広く法務・コンプライアンス・リスク管理関係の仕事に魅力を感じるようになった。大手企業の不祥事を見るにつれ、今後もますますこの分野の重要性が高まるはずだ。(ポジティブな理由)
弁護士に魅力を感じられなくなったという理由は正直に言った方が話が早い。
企業側もこの点は十分理解できているからだ。
むしろ、2つ目のポジティブな民間に切り替える理由を厚く説明する方が重要だろう。
業務と無関係のサークルとかバイトしかネタがない学生と比べると、法科大学院を目指していたが、切り替えて、民間企業で法務関連の仕事をしてみたいという方が自然な流れだ。
②英語が弱い
法律関係或いは会計関係の国家資格を目指している学生にありがちな弱みが英語が弱いことだ。それは、単に試験科目にフォーカスせざるを得ないので、英語に振り向ける余裕が無いからだ。
これは、民間企業への就職に切り替えるタイミングにもよるが、時間があれば、TOEIC700点台でもいいので、スコアを作った方がいい。
要領が良い学生なら、数か月で対応できるかもしれない。
英語が弱いと、総合商社とか、グローバル企業へのインパクトが弱まってしまう。
③法律に対する知識の深さをどう証明するか?
昔は、司法試験の短答式合格とか、国家一種の合格事実を示して、就職活動で箔付けするということはよく見られた。
しかし、自らの法律力をどうやって誇示できるかというのが難しい。
行政書士や宅建だとインパクトが無さ過ぎてない方がいいというレベルである。
法務検定2級というのも大したことはないが、これでもあれば、書面等に記載できるので取れるなら取っておいた方がいいだろう。
また、法科大学院合格後に、就職留年することになった場合には、その事実はわかりやすいアピールとなるだろう。
(もちろん、トップレべルの法科大学院でないとアピールにならない)
④企業研究・分析を十分に行うこと
英語と並んで、法律ばかり勉強していた法学部生にありがちなのが、経済・会計系のスキルが弱いことである。
また、企業研究に掛ける時間を取れなかっただろうから、対象企業を絞った上で、十分な業界・企業研究を行う必要がある。
もっとも、法科大学院を真剣に目指して勉強していたら、勉強癖がついているので、集中すれば企業研究はすぐにキャッチアップできるかも知れない。
3. ターゲットとなり得る業界等
①総合商社の法務コンプライアンス、内部監査、リスク管理系
総合商社と言うのは、昔から内部管理部門が充実している。
ただ、法務部の場合、社内弁護士を採用するようになってきているので、非弁護士がここを狙うのは厳しい。
そこで、広くコンプライアンス、内部監査、リスク管理といった内部管理部門を志望するのがいいだろう。
もっとも、総合商社は狭き門なので、他に何かしらのインパクトが無いと難しい。英語は最低限TOEIC700点台を取ってやる気を見せるとともに、リーダーシップとかをうまくアピールする必要がある。
いずれにせよ、総合商社にフォーカスしすぎるのはリスクが高い。
②製薬業界(外資系含む)
知財に関心があるのであれば、法務に力を入れている製薬業界も狙い目だ。外資系も強く、法務関連のスキルを持っていれば、将来の転職能力も高くなる。
もっとも、ここでも問題となるのは、製薬会社も社内弁護士を採用していることだ。法務部門で、弁護士と非弁護士が争うと勝ち目はない。
従って、ここでもコンプライアンス、内部監査、リスク管理といった内部管理部門を広く狙うのが良いだろう。
製薬業界は、総合商社と比べると、就職難易度は劣るので、可能性はあるだろう。
③国内系金融機関
金融法に関心があるのであれば、典型的な規制業種である金融機関は狙い目だ。
特に学部のスペックが高い場合には、IBDコース別採用を狙うこともできる。もちろん、難易度は高い。
他方、総合コースを狙うのはリテール配属のリスクがあるのでおススメしない。
おすすめは、国内系運用会社である。
国内系運用会社は基本的にコース別採用はしないが、コンプライアンスやリスク管理に関するニーズはある。
そこで、内部管理部門を希望するということで、挑戦する価値はある。
何故か、運用会社はマイナーな存在であり、大手銀行・証券会社の子会社と言う位置付けもあり、格下に見られがちだ。
しかし、実際はプロフェッショナル職も多く、将来外資系運用会社に転身できる機会は少なくない。
従って、こちらに重点を置く戦略も採り得る。
④ベンチャー企業について
ここでいうベンチャー企業とは、既に上場しているベンチャー企業、あるいは、IPO等を目論んで既に億単位の出資を受けているベンチャー企業である。
従業員が10人にも満たないような本当のベンチャー企業は含まない。
実は、IPO狙いのベンチャー企業で、法務担当者を採用したがっている企業は結構ある。
これは、Wantedlyで検索してみると良い。
また、メルカリなどもそうだが、既上場の大手ベンチャーでも法務担当者に対する需要はそれなりにある。
しかし、総じてベンチャー企業は給与とか安定性においてメリットが少ない。
法科大学院を目指していたような学生は、一般的に起業をしたがるとも思えない。
このため、何か思うところがあれば別だが、元法科大学院志望者がベンチャー企業に直接行くのはおすすめではない。
どちらかというと、滑り止めの位置づけである。
4. 入社後の留意点
入社後の留意点としては、法務以外に付加できるキャリアを構築することだ。
従来は日本では弁護士数は少なく、一部の外資系企業を除いて、社内弁護士はほとんど見られなかった。
ところが、司法制度改革の結果、弁護士があふれ、大企業がインハウスを募集すると殺到する事態となっている。
そういうところに、非弁護士が勝負していくのは賢い戦略ではない。
他方、法務近接部門である、コンプライアンス、内部統制関係については需要が高まってきている。
したがって、こういったところでスキルを磨く方が将来を踏まえると有効である。
法科大学院進学を諦めて、民間企業への就職に切り替えるのは十分合理性がある選択肢だと思う。
その際には、就活に関する情報をキャッチアップし、狭義の法務職に拘泥することなく、法律の素養を基に広く近接部門でのキャリアを狙うのが有効では無いだろうか。