東大生の約7割が使用していると言われる、知る人ぞ知る就活サイトの「外資就活」であるが、こちらを見ていると、たまたま、マッキンゼーを蹴って、わざわざ大手ネット系ベンチャーに就職した人が紹介されていた。
その方は東大出身であったので、キャリアを形成していく上で、東大から大手ベンチャー企業に就職することについて考えてみた。
1. そもそも「大手ベンチャー企業」とは?
大手ベンチャー企業に決まった定義はない。
最広義では、リクルート、ヤフー、楽天たりまで大手ベンチャーとされる。
しかし、それでは少々広すぎるので、ここでは、時価総額1兆円未満の上場ベンチャー企業に限定して検討したい。
具体的には、サイバー・エージェント、DeNA、グリー、mixi、更に、新しいところでは、メルカリとかアカツキあたりもこれに該当する。
2. 何故、わざわざ東大からこういったベンチャー企業に就職するのか?
東大であれば、外銀・外コン・総合商社、電博、キー局、三井不動産・三菱地所、といったところを除くと、ほぼ全ての企業から内定を取ることは可能だろう。
そうした中、何でわざわざベンチャー企業に行くのだろうか?
よくある理由としては、「新規事業」に関与できる、「若いうちから第一線で活躍できる」、「子会社の社長になれる」といったパターンではないだろうか。
要するに、ステータスとか給与の高さではなく、仕事の内容、特に、若くてして経営に関与できるとか、新規事業を自ら創造できるというところではないだろうか?
いわば、大企業と起業の中間であり、ある程度安定した位置に居ながら、将来の起業のための練習・準備ができるということだろう。
大手ベンチャー企業での新規事業はうまく行っているか?
ところが、大手ベンチャー企業の新規事業はうまく行っているように思えない。
M&Aが絡んだ新規案件もそうである。
mixiiのチケットキャンプ、グリーの動画ベンチャーの3ミニッツの減損、DeNAのWELQ問題。
どこも厳しい結果になっているようだ。
サイバーエージェントのAbema TVは巨額の赤字を垂れ流し続けているが、それを補填している収益源はCygamesと広告代理店事業であり、新規事業は数多く行っているが、収益の支えになるようなものは見当たらない。
4. 何故大手ベンチャー企業の新規事業はうまく行かないか
①そもそも生粋の企業かと人材のタイプが違うのではないか?
起業家というのは、周りの人が何と言おうと、やりたいことに向けて突っ走る、リスクを厭わないタイプを想像する。
他方、大手ベンチャー企業に入って新規事業・社内起業を志す人材は、いきなり起業と言う自信は無い、しかし、給料はそこそこ欲しいというタイプだろう。
そうすると、この時点で、本来の起業家とは異なるタイプの人材ばかり多く集まる可能性がある。
②大きな組織なので、自分一人で何とかしようという雰囲気にならない
ベンチャー企業というのは、創業者一人或いは共同創業者数人からのスタートとなる。
そこから、お金と人を集めて大きくしていくわけだ。
他方、大手ベンチャー企業の新規事業と言うのは、人事、経理、IT、法務と、社内にサポート体制があるし、最初から複数の人数からなるチームでスタートする。
頼れる人が自分たち以外誰もいないというベンチャーと、既に経営資源が揃っている大手ベンチャー企業の新規事業とでは、その辺の緊張感・プレッシャーが大きく異なっているように思える。
③大手ベンチャー企業の新規事業は模倣が多くないか?
生粋のベンチャー企業は、自分がやりたいこと、他社がやってみたいということに挑戦するケースが多い。
他方、大手ベンチャー企業の新規事業は、既に海外とか国内で先行者がいる事業を模倣するパターンが多くないだろうか?
例えば、ヘルステックが流行りそうだからヘルステック系ベンチャーを模倣して起ち上げるとか、動画が流行りそうだから動画ベンチャーを社内でも起ち上げると言ったものである。
サイバーエージェントなんかもこのパターンが多く、Makuakeなんていうのはクラウドファンディングであり、タップル誕生なんていうのは後発組の出会い系アプリである。
(もっとも、Cygameも、先行組を模倣したスマホゲーム・ベンチャーであるが、こちらは大成功した。)
別に既に成立しているビジネスモデルを模倣するのは、成功しさえすれば、全然問題は無い。
しかし、既存のビジネスモデルを模倣するというのは、自らがやりたい事業が見つからないからではないかという見方もできる。
既存のベンチャービジネスと同様の新規事業を行うというのは、ダメというわけではないが、モチベーションに欠ける気がしないでもない。
④そもそも、成功した場合のインセンティブは制度としてあるのか?
大手ベンチャー企業の新規事業での華々しい成功事例があまりないからか、その際の成功報酬はどのようになっているかよくわからない。
ベンチャー企業が上場する前に幹部候補として入社し、ストック・オプションを付与されれば、成功裏に上場した場合には、数千万円から数億円のキャッシュを手にすることができる。
これは非常に大きなモチベーションとなる。
ところが、既上場ベンチャー企業の場合は、既上場のストック・オプションをもらってもあまりうま味は無い。
他方、子会社株式(或いはストック・オプション)を付与される話もあまり聞かない。
純粋の起業の場合には、リスクは高いが、IPO或いはM&AによるEXITができた場合には、少なくとも数億円が手に入る。
このあたりの報酬の違いは、ますますモチベーションの差につながってくる気がする。
この点、明確な制度設計をしている上場ベンチャー企業がある。
それは、EC事業でお馴染みのSHOPLIST運営会社であるCroozだ。
こちらは、小渕社長自らが、子会社経営で成功した暁には、二桁億位の報酬を与える制度になっていることを明言されている。
これは、他の大手ベンチャー企業には見られない仕組みであり、大いに注目される。
5. 新規事業をやったというだけでは大したキャリアにならない
①新規事業への関与は転職力を高める程のスキルとは言えない
東大から、大手ベンチャー企業で新規事業に関与して、5~6年が経過したとしよう。しかし、新規事業を5~6年やったというだけでは大したスキルにはならない。
何故なら、他の企業の採用担当者もバカではないので、大手ベンチャーの新規事業というのは、資金調達、人材採用、サポート体制は大手ベンチャー企業自身が供与しているし、複数の人材が起ち上げたものであること位はわかるので、各自が修羅場をくぐって起ち上げたとは評価されないからである。
②大手ベンチャー企業では、ファイナンススキルもコンサルティングスキルも身に付かない
外銀⇒ベンチャー、外コン⇒ベンチャーというキャリアは時々メディアで散見される。
しかし、ベンチャー⇒外銀、ベンチャー⇒外コンというキャリアは余り見られないということにお気づきだろうか?
若いうちに確かなスキル、典型的なものが、ファイナンスとコンサルティングだが、そういったものを習得したいのであれば、外銀、外コン、或いは国内系の金融やコンサルに就職した方が堅い。
③本当にベンチャー起業をやりたければ、本当のベンチャーに行った方がいいのでは?
本当に、自らベンチャー企業を起ち上げたいという強い想いがあるのであれば、最初から、生粋のベンチャー、要するに従業員が10人にも満たないベンチャーに行くべきだ。
その方が、本来のベンチャー経営というものを学習することができるからだ。
確かに、給与とかは安いが、他方、大手ベンチャー企業も入社時からの昇給は鈍く、起業資金が貯められるほどの給料は無い。
いきなり、本当のベンチャーに行くのが不安と言うのであれば、学生時代にベンチャー企業でどっぷりとバイトをしてみるのが良い。
ベンチャーのバイトについては、パッションナビで検索するのが便利だろう。
www.passion-navi.com
まとめ
確かに、「新規事業」とか「社内起業」というのは耳障りのいい言葉である。
また、周りが外銀・外コン・総合商社ばかりを追っかけているのを見ると、自分は違うことをやってみたくなる気持ちもわかる。
しかし、リスク・リターンというものがあって、安全な立場で(社内)起業して、億万長者になるという虫のいい話は無い。
特に、大手ベンチャー企業は新規事業のインセンティブプランが充実しているとは思えず、アップサイドは限られるはずである。
そして、これといったスキルは身に付かない。
そういうことを考えると、面白みに欠けるかも知れないが、外銀・外コンに落ちてしまったのであれば、
セカンドベストといえる、国内系金融のコース別とか、総合系/国内系コンサルファームでコツコツとスキルを磨くのがベターではなかろうか?
ある意味、起業というのは何歳でもできるので、遠回りかも知れないが、スキルを付けて自信を持った段階でも遅くは無いだろう。