【年収チャンネル】StockSun株本さんのスーパー・フリーランス・モデルを考察してみた

「年収チャンネル」でお馴染みの、StockSunの経営者、株本さんのフリーランス・モデルがメディアにも取り上げられ、その後もビジネスは順調に拡大しているようだ。確かに、直感的には独特のビジネスモデルのように見えるが、メディアでは具体的に、どういった点が優れているのか整理されていないようなので、「年収チャンネル」のファンの1人として、考察してみたい。

1. 収益構造について

StockSunの収益構造は、株本さんご自身が強調されている通り、仕入れ・在庫が無く、店舗・施設が無く、社長以外の社員も無く、借入金も無い。従って、以下の通りシンプルである。

利益=売上ー変動費ー固定費

利益を増やそうと思えば、
・売り上げを増やす、
・変動費(提携しているフリーランスの人達への外注委託費)を減らす、
・固定費を減らす、

の3つのファクターをコントロールすればいいことになる。

2. 「固定費が無い」ということが成功の秘訣か?

①何故、固定費がゼロなのか?

上記の利益を増やすための3つのファクターのうち、「固定費を減らす」ことについては、既に完成形である。要するに、固定費はサーバー代位しかかからないので、月5万円程度であり、減らすことを考える必要は無いのだ。

通常、固定費と言うと、ヒト、モノ、カネに整理すると、人件費、店舗・施設費、借入金といったところがメインの項目であるが、人件費については、人事・経理・総務等の間接部門の社員はゼロであり、Webコンサルタント業務に掛かる人件費は、全てアウトソース(外注委託)しているので、固定費ではなく変動費化している。そして、オフィスは持たない(不要)であり、借入をする必要も無いので、固定費は(ほぼ)ゼロなのである。

このあたりが、普通にベンチャー企業を経営している人から見ると斬新なので、StockSunのビジネスモデルの成功要因に見えるかも知れない。

②実は固定費ゼロはフリーランスでは当たり前では?

StockSunがブレーク するきっかけの一つが、こちらの記事で取り上げている
NewsPicksでの紹介である。これを読むと、NewsPicks読者のサラリーマンや起業家達は、驚愕である。何故なら、企業経営において「固定費」は悩みの種であり、その「固定費」がゼロなんて羨ましすぎるからである。

http://ss-kabumoto.hatenablog.com/entry/2018/07/31/015147

確かに、固定費ゼロというのは会社経営者やその従業員の視点からは、夢の世界かも知れないが、しかし、フリーランス、独立している個人事業者からすると当然の話ではないか?

例えば、IT企業を辞めて、フリーランスになったプログラマーを考えてみよう。

彼らは多くの場合、自分一人で自宅で仕事をしているので、人件費も賃料も借入金利もゼロである。SOHOの仕事をしている人達にあっては、固定費ゼロはうらやましくも何ともない。
というか、もっとお金になる仕事を取ってきて、オフィスを借りれるようになったらいいなあと思っているかも知れない。

このように、世の中のまだまだ大多数の経営者やサラリーマンからすると、StockSunの固定費ゼロモデルは驚愕ものだが、それは、フリーランス一般に起因するものであって、StockSunの本当の強みではない。

固定費がゼロであっても、売上をランサーズやクラウドワークスに依拠しているようでは、全然儲からない。

ということは、StockSunのビジネスモデルで注目すべきは、売上を如何にして作っているのかということとなる。

3. StockSunの売上創造モデル~独自の営業戦略~

①上質な案件を如何にして獲得するのか?

固定費がゼロでも売上少なければ、単なるサラリーマンより貧しいフリーランスのままである。StockSunの成功は、いかにして多額の売り上げを作る、言い換えれば、上質な案件を取ってこれるのか? ここにその秘密があるはずだ。

実は、この点について、株本さんはブログで紹介されている。こちらのポイントについては、以下でまとめてみる。

ここが、最も注目すべき点ではないだろうか?

http://ss-kabumoto.hatenablog.com/entry/2018/05/06/043134

②「決裁権者」にフォーカスする!

いい案件を取れるということは、営業力が優れているということである。StockSunの場合、営業力は株本さん一人に依拠している。(最近提携フリーランス・メンバーも営業し始めたようだが…)

従って、株本さんの営業力が優れているからである。

その営業力の秘訣は、「決裁権者」にフォーカスするということである。案件をもらえる可能性のある人とのみ付き合うということである。StockSunの場合、営業マンは株本さん一人しかいないので、光通信のような絨毯爆撃外交はできない。したがって、効率性が求められる。

この点、株本さんは決裁権者に絞って営業を掛けるわけであるので、その効率性は高いのである。

②決裁権者は決裁権者とつるんでいる!

決裁権者は決裁権者とつるんでいることが多いという。株本さんは、決裁権者にフォーカスする。そして、案件をもらう。

そして、クオリティの高い仕事をすると、決裁権者の近くには決裁権者が集まる傾向があるため、口コミで他の決裁権者に伝わりやすい。よって、また、別の決裁権者から案件をもらえるという、正のスパイラルが発生するのだ。

これが、株本さんの言う「次から次へと案件が来る」の一因であると思料される。

③話す内容は、「売上アップ」と「コストダウン」

以上のように、株本さんの営業の秘訣は、決裁権者にフォーカスすることによる営業効率の向上ということである。

しかし、いくら決裁権者にフォーカスしてアプローチをしたところで、コンテンツ、自社商材の魅力が無ければ案件をもらえない。

ここのポイントとしては、ブログ記事で紹介されている通り、「売上アップ」か「コストダウン」の話をするということである。当然と言えば当然かも知れないが、実は、業界を問わず、これができていない営業マンは多い。

端的に、自社サービスのメリットを伝えることができないと、例えサービスの品質が高くても受注できない。これは、目に見えないサービス業の営業の特徴である。

この点、株本さんは、売上アップかコストダウンを明確に意識されているので、伝わりやすい。一般に、ITサービスの営業マンはプレゼンが弱い人が少なくないので、元コンサル(ベイカレント)出身の株本さんのプレゼンスキルは抜きんでていることは容易に推察できる。

以上のように、StockSunの案件獲得能力の高さは、株本さんの効率的で要領を得た営業能力に依拠しているわけであり、このレベルのスキルが無いと、StockSunのビジネスは模倣できないのである。

4. 変動費について~株本さんの巧みなHRM~

StockSunが良質な案件を獲得できるのは、Webコンサルティング・ビジネスにおいて、良質なサービスを提供できるからである。

しかし、株本さん一人で全て対応することはできず、優秀なフリーランスのパートナー達と継続的・安定的な提携関係を維持できているからである。

これは、当然のように見えて、実はウルトラCである。まず、日本人は安定志向・寄らば大樹志向が非常に強く、優秀な人材は大手に流れる。したがって、そもそもフリーランスで優秀な人材を見つけるのは容易ではない。

また、数少ない優秀なフリーランスの人達は競争力が強く、もともと、束縛を嫌う人達なので、継続的に業務提携ができるというのは全く当たり前の話ではない。

実は、株本さんは「年収チャンネル」では敢えて「悪役」キャラを演じているが、大変HRM(人的資源管理:Human Resource Management)に長けているのである。

HRMは、
①モチベーション・マネジメント
②組織デザイン
③リソース・マネジメント
から構成されるので、以下個別に検討する。

①モチベーション・マネジメント

退職金・年金・ボーナス・会社名やタイトルによる名声もない優秀なフリーランスの人達をやる気にさせるものは何か?

それは、仕事の面白さと報酬の水準に他ならない。このうち、報酬の水準について、株本さんは非常に上手いマネジメントをされている。端的に言うと、ケチらずに十分な水準の報酬を支払っているのである。

これは、創業1年次のブログ記事に主要スタッフの報酬水準が紹介されているが、株本さんの月収が700万円の時に、超ハイスペックCTOには何と月収1000万円以上を支払っているのだ。

また、他のスタッフにも月商150万以上(年収ベース2000万円以上)の厚い報酬を支払っている。

これができる経営者は、まずいない。
まだまだベンチャー段階だし、自分が経営者であれば、お金が入ってきたら自分が一番多く取りたいと思うだろう。しかし、気前よく実力者には自分以上の報酬の支払いを厭わないし、若手のスタッフにも十分な厚遇をしている。

これによって、フリーランスのパートナー達は厚い報酬にモチベートされるし、
次も仕事が欲しいので一生懸命頑張る。すると仕事のクオリティが上がり、また、次の受注につながるという、正のスパイラルが発生しているのだ。

そもそも、上場企業ベンチャー企業を問わず、社長よりも高給の社員がいる会社なんてあるだろうか?それができているのは孫さんぐらいではないか?

このあたりの、モチベーション・マネジメントができているというのが株本さんの強みである。

②組織デザイン

StockSunは社長一人のフリーランス組織であるので、厳密な意味での企業における組織は存在しない。

しかし、運営方法等に関する取り決めのようなルール・制度は存在する。

この点、株本さんは、無駄の徹底的な排除と利益への集中ということを社是のように明示し、実際そのように運営している。

オフィスは存在しない。
定例ミーティングはやらない。
会議も必要最低限度しかやらない。
雑用でも全て費用化して、役割以外の仕事をやらせない。
利益にフォーカスするように誘導する。

このようなルールと運営を徹底化することによって、利益の最大化に誘導する、カルチャーを(フリーランス集団としての)組織を醸成することに成功しているのだ。

フリーランス集団であるにも関わらず、ベンチャー企業以上のコーポレート・カルチャーを醸成できるというのは、HRMの運営の上手さである。

③リソース・マネジメント

フリーランスに限らず、ベンチャー企業のような小規模組織において、もっとも経営者を悩ませる問題の1つがリソース・マネジメントである。

要するに、いい人材を採用する、そしてその人材をキープできるかということだ。

StockSunの場合、上述のように、十分な報酬と明確な組織のミッションによって、自ずと、優秀な人材が集まり、むしろフリーランス・メンバーは拡大傾向にある。

日本の場合、同質社会であるので、少し美味しい話があると、一斉に多くの人達が集まる傾向にある。StockSunの場合も例外でなく、フリーランス・メンバーとして参加をしたいハイスペックの人達が多く押し寄せてきているようである。

そうなった場合、スタッフのクオリティが下がってしまうリスクがあるのだが、先日のブログ記事のように順調にビジネスは拡大しているので、人材の質の維持という意味において、リソース・マネジメントは上手くいっている模様だ。

まとめ

StockSunの成功要因は、「フリーランス」に注目が集まりがちだが、むしろ、普通の企業経営の成功要因である、経営者の「営業力」と「HRM(人的資源管理)」という極めてオーソドックスものである。従って、株本さんは会社を経営しても成功するだろう。

株本さんは「年収チャンネル」で悪役キャラを演じているので、理解できない人たちは多いのだろうが、StockSunを参考に成功をしたいのであれば、その点を掘り下げて検討すべきだ。

StockSun運営の「年収チャンネル」は既にチャンネル登録者数が18万人を超え(2021年12月時点)まで浸透してきている。また、StockSun株式会社自体も2020/6/30で3期目の決算が終了したばかりだが、売上が10億円弱、利益が約1億円まで成長してきている。

http://ss-kabumoto.hatenablog.com/

今後も、StockSunがどこまで成長していくのか、目が離せない。

 

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