東大工学部の年収と就職。メーカーが主流も、一部は外銀・外コンや受託開発で稼ぐ?

1. 偏差値の高さが年収に直結しないのが東大工学部の特徴?

工学部で最難関、そして、最高のステータスを誇るのが東大工学部である。
ところが、理系全体の中では医学部に押され気味である。

医学部の難易度は長期的・継続的に上昇し続け、今や難易度において東大工学部(理科1類)を上回る国公立の医学部がいくつも登場してきている。

理由としては、東大工学部を出ても、結局は大手の製造業に勤めるのであれば、それ程稼げるわけではない。そうであれば、医学部に進学した方が高年収を実現できるからだという。

<医学部VS工学部問題>
https://career21.jp/2019-02-05-064559/

2. 東大工学部の場合、約8割は大学院に進学

医学部は6年間通う必要があるが、工学部は普通に4年で卒業できる。
しかし、難関大学の工学部の場合、非常に多くの学生が大学院に進学する。
東大工学部の場合、何と約8割が大学院に進学する。

そうなると、事実上6年制に近くなり、経済的な負担は高くなる。さらに、博士課程まで進学するとなると、更に負担は増えてしまう。(博士課程まで進学してしまうと、ポスドク問題にも直面する。良いアカポスが見つかれば良いが、そうでないと、最も学位が高い博士課程の修了者の年収が最も低いということにもなりかねない。)

3. 就職先は今でも基本的に大手メーカーが中心

東大工学部の卒業生はどういった企業に就職するのであろうか?
大学側の詳細な開示は無いので、東大新聞のデータが参考になる。これは、学部卒業者と大学院修了者に分けて開示してくれている。

学部別の開示は無いが、大学院修了者の大半は理系学部であるので、工学部の場合は大学院修了者の就職先を参照すればよいだろう。

東京大学 学部卒業者(2020年度)

順位

民間企業

人数

1 楽天 19
2 三菱商事 16
3 三菱UFJ銀行 15
4 デロイト トーマツ コンサルティング 14
  マッキンゼー・アンド・カンパニー 14
6 三井住友銀行 13
  野村證券 13
8 PwCコンサルティング 12
  三井物産 12
10 NHK 11
  アクセンチュア 11
12 大和証券 10
13 クニエ 9
  東京海上日動火災 9
  野村総合研究所 9
16 伊藤忠商事 8
  住友商事 8
  日本経済新聞社 8
  日本政策投資銀行 8
20 みずほ証券 7
  丸紅 7

(出所:東大新聞オンライン2021年8月29日より外資系金融キャリア研究所が編集)

東京大学 大学院修了者(2020年度)

順位

民間企業

人数

1 ソニー 43
2 アクセンチュア 33
3 日立製作所 28
4 中外製薬 23
  野村総合研究所 23
6 アマゾンウェブサービスジャパン 22
7 ソフトバンク 21
8 NTTデータ 20
  トヨタ自動車 20
10 富士通 19
11 PwCコンサルティング 18
12 パナソニック 17
13 マッキンゼー・アンド・カンパニー 16
14 ヤフー 14
15 アマゾンジャパン 13
  キーエンス 13
  キオクシア 13
  リクルート 13
  楽天 13
  三菱電機 13
  清水建設 13
  東京電力 13
  日本IBM 13

(出所:東大新聞オンライン2021年8月29日より外資系金融キャリア研究所が編集)

これを見ると、ソニー、日立、中外製薬、トヨタ、富士通、パナソニック、キーエンス、キオクシア、三菱電機、清水建設、日本IBMと過半数は製造業が占めていることがうかがえる。

他方、IT化の流れで、上位にアクセンチュア、NRI、ソフトバンク、ヤフー、楽天というIT系が上位に入ってきている。

また、PwCコンサルティング、マッキンゼーというコンサルティング・ファームや、アマゾンのような外資系企業が上位に入るといった変化も見られる。

4. 東大工学部の場合、年収重視の企業選びは行わないのか?

①文系と異なり、金融・商社が上位に1社も無いのが特徴

上記のデータを見る限り、大学院修了者の民間企業就職先上位には、金融・商社が1社も入っていない。他方、学部卒業生の場合は、上位20社中、12社が商社・金融である。

民間企業の場合、年収という軸で見ると、商社と金融が圧倒的に高い。
そこを敢えて選ばないということは、基本的には年収重視で就職をしないということだろうか。

②しかし、年収重視の就活を行う東大工学部生も徐々に増加?

もっとも、高年収の業界・企業を選択する大学院修了者も徐々に増加しているかも知れない。
就職者数が上位のアクセンチュア、PwCコンサルティングは、社内で勝ち抜くことが出来れば、マネージャーで1000万円、パートナーで2000万円以上と、大手金融機関以上の年収を実現することも可能だ。

さらに、就職者数が13位のマッキンゼーの場合だと、マネージャークラスで2000万円、パートナーになると5000万円以上稼ぐことも可能だ。

また、アマゾンの様な外資系ITの場合は、社員間格差は大きいものの、エリート社員はかなりの高収入も可能である。

まだまだ少数派かも知れないが、高収入が可能な業界・企業を選択する理系の学生も見受けられるようになった。

③DXブームの流れで、理系の文系就職は今後増えていくか?

学部別の就職先データが無く、また、上位20社までの開示しか無いが、理系の文系就職者は増加傾向にある可能性がある。

というのは、近年のDX/ITブームによって、非製造業・非IT企業の理系の学生に対するニーズは非常に高まって来ているからである。

金融機関においては、メガバンク、証券、保険、カード、アセマネと全業種において、中途採用も新卒採用も理系の人材を積極採用している。

金融機関はコース別採用の可能性はあるし、商社の厚遇は理系でも注目されているようなので、今後は、徐々に金融や商社に就職する東大工学部生が増加していく可能性はあるだろう。

<理系の文系就職について>
https://career21.jp/rikeinobunkeishushoku/

5. 年収に関して、最も凄いのは起業関係だが…

①東大工学部が最も稼げるのは起業で成功した場合

金融・商社・コンサルに就職すると、それなりの高給が期待できる。
しかし、最も稼げる可能性があるのは起業で成功するケースである。今は数年前と比べると下火になったかも知れないが、AI関係の起業で成功すると桁外れの年収を得られる可能性がある。

典型的なのは、PKSHAテクノロジーである。最盛期には時価総額は1000億円を超え、創業者の上野山氏などの経営者は億万長者になることが出来た。他にも、グノシーの創業者の福島氏も松尾豊先生の研究室出身で、大成功を収めている。

これらは、ごく一部かも知れないが、プログラミングに強い情報系専攻の学生の場合には、起業で成功すると上場企業の社長を遥かに凌ぐ巨万の富を20代で手にすることも可能になっているのだ。

②IPOまで行かなくとも、受託開発で高収入を得るという途もある

PKSHAとかグノシーのような成功は求めていないよ、それに、IPOだと人を集めたりVCから資金調達をしたり面倒くさいよ。

という考えの工学部生も少なくないだろう。

起業というのは工学部に限らず、文系の場合でも、企業で働くのと違って、いろいろと面倒なことがあるのは確かだ。そういう学生は、フリーランスで稼ぐという途も残されている。

いきなりフリーランスにならなくても、NRIとかアクセンチュアあたりで修業をして、チャンスを見て独立するというパターンもある。優れたプログラミング・スキルがある場合、受託開発で月商100万とか200万といったレベルであれば、十分可能性はあるようだ。

このレベルでも、十分に大手の製造業や通信会社よりも高収入なので、今後はこういった路線も面白いのではないだろうか。

③起業・独立の課題は経営力と営業力

フリーランスも悪くないと思うけれども、どこからどうやって仕事を受注してくるのか?

自分はエンジニアなのだから営業や対人関係の仕事は苦手だし、やりたくないよという工学部生もいるだろう。

それは、仕事を取るのが得意な人達がいるので、そういった人たちを見つけてそこから仕事をもらえばいいのだ。

もちろん、報酬についてはピンハネをされてしまうわけなのだが、いわば営業のアウトソースという考え方もできるので、十分合理的な選択だ。

実際、営業や経営は苦手で、プログラミングに専念したいという工学部生は少なくないので、そういった営業や経営に長けた企業から仕事をもらってやっている人は多い。

その点、こちらの記事はNewsPicksでも紹介されたものだが、新しい働き方として参考になるだろう。

極めて21世紀的な働き方ではないだろうか?
https://20assist.com/archives/1931

経営に秀でた知り合いを探そうとすれば、同じ東大工学部からマッキンゼーとかBCGに就職した同期をたぐってみるのがいいだろう。
マッキンゼーとかBCGは、若いころは薄給激務であり、数年で辞めて独立をしたり、起業する人は普通に多い。

従って、そういう人達と交流すると、いろいろと知らない稼ぎ方がわかって面白いと思う。

最後に

最高レベルの学力で、最高の工学部に進学して、更に大学院で2年間も長く勉強して、生涯賃金は金融・商社の半分以下。

また、自分よりは偏差値は遥か下だったにも関わらず、医学部に行った者は、医者ということで周りからチヤホヤされ、年収も下手したら自分の5倍以上ある。

「好きな研究開発が出来れば気にならない」と言えれば良いが、果たしてそう割り切ることが出来るか?シャープ、東芝、パナソニック等の例を見ても、製造業は国際競争が厳しく、その研究開発も何時まで出来るという保証もない。

他方、IT、DXに対する産業界のニーズは非常に強く、あらゆる業種で優秀な理系学部出身者に対する需要は強まっている。また、戦コンや外資系IT企業に関する情報も徐々に浸透していくだろう。

更に、IT関係に強いと、起業やフリーランスの途も拡がるだろう。

学力・学歴と年収は無関係なのかもしれないが、やはり相応には稼ぎたいものだ。
DXブームはまだまだ今後も継続しそうなので、優秀な理系は文系企業からも引っ張りだこだろう。理系が文系企業を活性化することができれば、それは産業界全体にとっても望ましいことである。今後も引き続き、東大工学部生の就職や年収に対する考え方の変化が注目される。

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