1. 変容していく東大法学部生の価値観?
東大の中でも最難関の法学部は別格と考えられ、就職先も、弁護士・官僚という、民間企業以外の職業がマジョリティであり、弁護士・官僚>民間企業と思われていた(今でもそういうところがあるかも知れないが)。しかし、何年か前のAERAなどでも特集されてきたが、天下り先が減少し、ステイタスも低下傾向にある官僚の人気が下降気味で、若いうちから数千万円の年収が期待できる外銀志望者が徐々に増えてきているという。
そこで、東大法学部生としては、「年収重視」の価値観を前提とし、弁護士を目指すのと外銀を目指すのとどちらがおすすめかについて考えてみたい。(年収重視であるので、官僚は対象外となる。)
2. 弁護士の年収について
弁護士は自由業であるので、当然ピンキリである。そこで、以下、タイプ毎に分析してみる。
①渉外弁護士(四大法律事務所)の年収について
これは、弁護士の中でヒエラルキーのトップに君臨する、四大法律事務所の弁護士の世界である。四大法律事務所の場合も、リーマンショックの影響を大きく受けている。それは、2大収益分野の、金融業務とM&A業務の単価が下がってきたからである。
金融業務の場合は、外資系投資銀行のグローバルでの不振により、案件自体も悪化してきている。
このため、リーマンショック前と比べると、全体的に収益性は厳しくなってきているが、それでもまだまだ一般的には高水準の収入が期待できる。
法科大学院を出て、1年間の修習を経て、最短だと26歳で四大事務所にアソシエイトとして入所することになる。この時の年収はボーナスも含めて、1200万円程度が相場である。
その後、少しずつ年収は増加し、5~6年後には2000万円程度となる。
従来であれば、30代半ば位でほぼ全員パートナーになれたのだが、今は全くそういうわけにはいかない。事務所によって異なるが、パートナーになるまでに10年以上かかるため、パートナーになれないアソシエイトは去っていくこととなる。
アソシエイトの場合だと、2500万円位が上限となってくるので、激務の中、なかなか3000万円の壁は破れない。
事務所によっては、比較的簡単にパートナーになれるところがあるが、年俸は歩合制なので、パートナーになってもアソシエイト以上の年俸が保証されるわけではない。
とはいえ、四大法律事務所のパートナーまで昇格できれば、一般的には4000~5000万円レベルの年収は期待できるだろう。
他方、1億円越えは、今在籍しているエクイティ・パートナーを除くと、容易では無いのは外銀と同様である。
②インハウス弁護士の年収
昔と違って、四大事務所に行った場合に、全員パートナーになれるわけではない。このため、途中でインハウス弁護士として各種企業に転身している弁護士は増えてきている。その中で頂点なのは、外銀でのインハウスローヤーである。
こちらもリーマンショックの影響を受け、以前より高給は期待できなくっている。
ゴールドマンサックス、モルガン・スタンレー、UBSといった大手外銀のMDまで昇格できれば、今でも5000万円~1億円は期待できるが、とにかく優良な空きポジションは無く、パイの大きさは縮小傾向にある。
ボリューム層のVPレベルだと、年収は2000万円台であるので、四大事務所のアソシエイトと変わらない(但し、ワークライフバランスは外銀のインハウスが格段に良い)
ところが、外銀以外のインハウスとなると、年俸水準は大きく見劣りする。
外資系製薬会社は割と好んでインハウス弁護士を採用するが、部長クラスでも年収1800万円というのはザラであり、四大事務所の入所3年目のアソシエイトと同じか、それ以下になってしまう。
また、総合商社とか国内系金融機関にインハウスとして就職する弁護士もいるが、年収水準は普通の総合職社員と変わらず、1200万円とか1400万円というレベルである。(そもそも一般社員と同じであれば、弁護士になる必要は無かったということになるが…)
では、四大法律事務所を辞めてまでして、何故インハウスになるのかというと、ワークライフバランスが格段に良いからである。
四大法律事務所のアソシエイトで2500万円もらっても、勤務時間が大げさにいうと、24時間体制、通常は朝の10時から夜中の2時、3時勤務という世界からは抜け出したい人も多いのだ。
③街弁として独立する場合
このセグメントは、リーマンショックというより、司法試験制度改革に伴う司法試験合格者数の大幅増によって大きな打撃を受けたところである。
ときどきメディアで取り上げられるような年収300万というのは極端だが、都心での開業は厳しく、北関東あたりに行った場合だと年収1000万円位はまだ可能のようだ。但し、アップサイドは限られ、年収1500万以上を狙うの厳しくなってくる。
また、地方の生活は合わないので、年収1200万円の北関東での街弁を辞めて、年収900万円程度のインハウスになった中堅(30代後半)の弁護士もいる。
3. 外銀の年収水準について
外銀の年収水準については、専門メディア(外資就活)とかVorkersの該当記事が詳しい。
https://gaishishukatsu.com/archives/35394
外銀の場合、企業による差はあるものの、大体新卒1年目のアナリストで800万円~。入社3年目では確実に1000万円を越え、1ランク上のアソシエイト(26~30歳)だと、1500~2000万円位だ。
30歳~のVPに昇格できると、2500~3500万円位が期待できる。
そして、最高到達点であるMD(35歳~)に昇格できると、4000万円~1億円位が期待できる。
(いずれも、トレーディング、セールス、IBD等のフロント部門である。)
リーマンショック前と比べると、大幅に減っている。
4. 弁護士と外銀との比較
両社の共通点は、リーマンショック後に、全体的に大幅に年収水準が下がったことである。上記を参考に、ポイントをまとめてみると、以下のようになる。
①弁護士で外銀並みの年収が期待できるのは、四大事務所のみ
「年収重視」ということで考えてみると、インハウスや街弁では到底外銀に太刀打ちできない。従って、「年収重視」で弁護士になるのであれば、四大事務所の一択である。
四大事務所と外銀の年収は似通っているし、頂点(パートナー、MD)への道のりは険しくリスクも高いという点は共通しているが、同じ頂点で比べて見ると、四大法律事務所のパートナーの方が高いと思われる。
それから重要なのが、四大事務所のパートナーまで昇格できれば、そこから先はある程度安泰であるということだ。この点、MDになってもいつクビになるかわからないし、45歳が定年という暗黙の了解がある外銀とは大きく異なる。
従って、長期的、生涯賃金的な視点で見ると、四大事務所のパートナーに軍配だと思われる。(もちろん、そこまで到達するのは容易ではないが…)
②弁護士になるのは面倒で時間がかかる
それから、両者を同じように比べてきたが、弁護士になるには、2年間の法科大学院、新司法試験(東大法科大学院でも合格率は50%しかない)、1年間の司法修習と、3年半もの余分な時間とコスト(学費200万円弱)がかかることを考慮しなければならない。最近では、予備試験というのが人気のようであるが、在学中に合格できるのは東大法学部でもごくごく一部である。
③とりあえずの結論
以上を踏まえると、東大法学部の中でも法律が得意で、予備試験或いは最低でも東大の法科大学院に進学して余裕で新司法試験に合格できる自信があるのであれば、オーソドックスに弁護士になって四大事務所のパートナーを目指す方が良さそうである。
そのあたりは、大学1~2年の段階で司法試験予備校や過去問を解いた感触でわかるのではないだろうか?反対に、法律科目の単位取得にあたふたしているレベルだと、わざわざ弁護士の途を目指す必要は無く、外銀ルートを狙った方がいいのではないだろうか?
余談
リーマンショック前は、弁護士(四大事務所)も外銀も、サクッと大金を稼げたのだが、急速に厳しくなった。
今一番稼げるのはIT系の起業とかプログラミングではないだろうか?
年収というより、20代で数億円の企業売却をしている事例はいくつもでてきているし、フリーランスのエンジニアが月商1000万円というのも見られる。
東大法学部でも目端の利く生徒は、そちら側の世界を見ている者もいるかも知れない。
弁護士と官僚の凋落で、医学部>法学部が顕著になってきているが、下手をすると、AIの時代、工学部>法学部になってしまうかも知れない。