1. 最難関の外銀に入れたからといって、将来安泰とは限らない
就職偏差値最上位の外銀。
国内系金融機関とは比べ物にならない高額の年収水準と、明るい金融キャリアが期待できる、皆のあこがれのポジションである。
しかし、だからといって、その先もずっと明るい将来が保証されているわけではない。
今回キャリアについて相談を受けたのは、超一流国立大学の理系の院卒で、外資系証券会社に入社し、現在債券・デリバティブ系のセールス職にある20代後半の若手社員からである。
彼は、入社後4~5年経過し、現在アソシエイトであり、基本給1200万円強、ボーナス600万円で合計年収1800万円程度だという。
あと数年頑張って、管理職的VP(Vice President)に昇格できると、年収3000万円以上も可能となる。
ところが、営業成績のプレッシャーが強いセールス職に疲れてきたため、彼は転職を考えるようになったのだ。
もともとハードワークで、かつ、相場環境に大きく左右される厳しい労働環境にある外銀においては、新卒入社した人達が3年後には半減していることもある。
彼は5年位は持ちこたえているので、第一関門はクリアしているわけだ。
それでも、だんだんキツく感じるようになり、転職したくなってきているのだ。
2. 外銀営業職からの転職の選択肢
彼のような、20代後半の外銀の若手営業職の転職に関する選択肢としては、以下のものが挙げられる。
①同じ外銀内の社内異動
実は外銀の場合も、昔からそれなりに社内異動というのは随時やっている。
20代の若手(VP未満のアナリスト、アソシエイト)であれば、ポテンシャル異動が可能だし、外部から転職エージェントに高いお金を払ってわざわざ社外から手間暇かけて採用しても、失敗することは少なくないからである。
彼の場合、営業がキツイということなので、そもそもIBDとかリサーチのようなフロント部門は厳しい。
あるとしたら、ミドル、バックオフィス系である。
ところが、彼の場合、理系の営業職なので数字には強いが、企業会計や税務の専門性は無いので、ファイナンス(経理部)は厳しいし、コンプライアンスも厳しい。
ITが強ければ、ITと言う可能性も無いではないが、セールス⇒ITの社内異動は聞いたことがない。
従って、彼の場合、あり得るとしたらオペレーション関係だろうが、同部門は長期的にポジションを減らしている傾向にあるので、オペレーション部門のヘッドにでも好かれていない限り、かなり難しい。
②外銀他社への転職
これが転職の王道であろう。
同じ外資系の営業職である。彼の場合は若手だし、営業職は流動性が高いポジションなので、今位の経済環境であれば、どこか他にポジションが見つかる可能性は十分にある。
もっとも、彼の場合、営業が厳しいと感じたので転職をしたいわけなので、同業他社の営業職への転職は選択肢とはならないだろう。
ただし、相対的に緩めのポジションがあれば、とりあえず時間稼ぎで転職するというケースはあり得る。
なお、同業他社への転職の場合は、基本経験者採用になるので、未経験の部署への転職はかなり厳しいと考えられる。
外資系運用会社への転職
彼は現在外資系証券会社に勤務している。
同じ外銀といっても、証券会社と運用会社とではカルチャーが大きく異なる。
営業職の場合でも、外資系運用会社の場合には、外資系証券会社のように数年でクビになるリスクは比較的低い。
従って、上司の評判、業務内容等によっては、外資系運用会社の営業職に転職するという選択肢は十分にあり得る。
しかし、その分年収は下がることは受け入れざるを得ない。
彼の場合、現在それほどもらっているわけではないが、外資系運用会社に行った場合には、年収が2割程度下がることは覚悟した方がいいだろう。
④国内系金融機関への転職
外銀に疲れた場合、国内系金融機関に行くのが王道である。
20代であれば、ポジションが見つかる可能性は高い。
また、野村證券の専門職の場合には20代でも1500-1600万円位は出る場合もあると聞く。大和、SMBC日興、みずほ、三菱となると、大幅に下がることにはなるが、それでも1200-1300位は可能ではなかろうか?
もう一つの選択肢として、理系の院卒で運用系への関心があれば、国内系運用会社で運用或いはリサーチのポジションを狙うという手もある。
一時的に給与は下がるが(おそらく半減以下。1000万円を割り込む可能性が高い。)、国内系運用会社はワークライフバランスに優れており、ここでキャリアをリセットして、運用のスペシャリストになり、将来チャンスを見て外資系(運用会社)に再挑戦するという途もある。
もっとも、国内系の運用会社の場合には、みずほのアセットマネジメントOneのように合併によりポジションが減っているので、少しポジションを探しにくい面もあるかも知れないので、その辺は転職エージェントと十分相談した方がいいだろう。
⑤国内系事業会社への転職
あるとすれば総合商社か?今更、メーカーに行くということは考えにくいだろう。
IBDであれば、企業財務系で国内系事業会社も無いではないが、給与の大幅ダウンを考えると、あえて事業会社に行く意味はないだろう。
国内系であれば、金融系を狙うのが手堅いと思う。
全くのキャリアチェンジをするとれば、25歳前後位までと考えた方がよく、院卒の場合は難しい。
また、事業会社の場合、外銀の収入を知るとモチベーションの欠如等から、採用を控える可能性もある。
⑥ベンチャー企業への転職
CFOポジションであれば、IBD出身者が有利であろう。
もっとも、性格的にベンチャー向きであれば、スペックの良さでどこか入れるかも知れない。
最近は、フィンテック系のポジションがあり、その場合には金融バックグラウンドは歓迎されるので、ビットフライヤーとかウエルスナビあたりを狙うという選択肢も出てきている、
しかし、営業疲れをした彼の場合には、基本選択肢にはなりえなかった。
⑦独立起業の途
プログラミング系のスキルがあればよいが、そうでないとなかなか難しい。
特に、金融機関に5年間もいると、一人で完結できる業務環境に馴染むには時間がかかる。
3. 就活時点における留意事項
外銀を志望している今の就活生は、このような情報をいろいろ入手しているので、外銀に入社しても、3年後或いは5年後には転職する可能性も念頭においていることだろう。
しかし、金融機関の場合、転職の可能性は相場環境に大きく左右されるので、リーマンショックの時ほどでなくとも、景気後退期には急激にポジションを見つけるのが難しくなる時期がある。
また、相場悪化時には、外資系だけでなく国内系も同様に厳しくなるので、3年後或いは5年後に、良いポジションが見つからないリスクも念頭に置く必要がある。
また、外銀の場合、給料がいいと言っても、リーマンショック後は20代であればせいぜい2000万円程度であり、転職時には多額の貯金を作ることは難しい。
従って、VPに昇格できるかできないか未確定の段階で、フェラーリを買うなど、過度の贅沢は控えておくべきだろう。
転職の範囲の広さという点では、外銀よりも外資コンサルの方が勝っている。
外資コンサルの場合、大手企業からベンチャー系まで、業種・規模を問わず人気がある。
従って、就職偏差値の高さから、外銀か外資コンサルかを希望するトップ学生は少なくないのだろうが、どちらが自分にフィットするのかよく考えた方がいい。